証券会社が潰れてた


 「ただいまぁ。」

 11月21日。土曜日の昼下がり、ガリガリに削られた右奥歯を手で押さえながら歯医者から帰ってきた私。そのままお昼のインスタントラーメンを作るためにお湯を沸かしはじめる。お湯が煮えるのを待ちながらぱらぱらと新聞をめくり、のんきにスポーツ欄を読みふける。すると、たまたま台所にやってきた親がぽつり。

「また証券会社潰れたみたいね、速報やってたよ」
「へぇ、またか。」

 時計を見るとちょうど1時。NHKのニュースの時間。ちょっと見てみようかと。お湯沸いたな、ラーメン入れて。テレビのリモコンぷちっ。

「1時のニュースです。大手証券会社の山一証券が債務の悪化から自己廃業を含めて検討に入っている事を明らかに・・・」

 ふうん、どうせ小さい所なんだろうな(まだ事態が把握できていない)、山一証券か、山一、山一(何かに気付こうとしている)・・・

 やまいちしょうけん〜!!??

 嘘ぉ!マジ?本当!?(ようやく頭の奥底まで信号が届いた、この間約15秒)


 という訳で、ある日突然、証券会社が潰れてました。負債総額3兆2000億円はもちろん戦後最大。かつグループ社員約10000名が路頭に迷うという異常事態に発展しています。そんな中、40代以上の社員の再雇用がなかなか進まない、という声も耳にします。

 世の中では既にさまざまな議論が飽きるほど垂れ流されていますが、「会社なんか潰れるわけがない」という妄想を完膚なきまでに叩きのめしてくれた、という意味では今回のこの騒動、実は私喜んでます。喜ばれる社員の立場にしたら「何考えてるんだコイツいっぺんシメる首洗って待ってろ」心境なんでしょうけど勘弁してください。あくまで個人論ですので。

 昔から日本企業は終身雇用という形態を取ってきました。ひとつの会社で働き続けることにより会社に貢献するシステム。こんなん今更詳しく説明するまでもないわね。

 確かに会社の一部で制度上は終身雇用も見直され始めてはいます。しかし実際問題、現場で働いている人間のマインドには骨の髄まで終身雇用の精神が染み付いているのが現実です。いい例が転職。今の会社のシステムになじんでいる人ほど転職に対していいイメージは持っていません。転職すること=悪いこと。我慢すること=いいこと。やめること=悪いこと。続けること=いいこと。

 自分で書いてて既にバカバカしいんですけど、世の中ではこれが常識。「これが普通だから」と議論の対象にすらならなかった側面も持っていました。なんだかんだで守られてたのかな、と。

 正直言って、今回の倒産って、長い間企業で働いている人程ショックだったと思うのよ。なんだかんだ言ったところで、自分はこの会社にいる限り生活は保証される、という考え方だったから。会社は潰れない。この前提があったからこそ終身雇用制度を立てる事もできた、辞めない事のメリット、辞める事のデメリットを説得できた。実際に続けることでそのメリットも甘受できた。

 でも、今回のこの倒産で今までずっと頼りにしてた、何よりも安全だと思っていたものが、いとも簡単に根元から崩れ去ってしまった。これ、相当ショックだと思うよ。終身雇用とかそんなレベルはとっくに超越してて、会社そのものがなくなってしまったんですから。「会社が頼りなんて幻想。いざという時会社は何にもしてくれない」って頭ではわかっていても体が馴染んじゃって踏ん張れない。逃げられない。ただぽかんと口を開けたまま崩壊の様を眺めるのみ。

 だから「社員の再雇用は」とかの新聞記事とか読んでて、ちょっと同情する面もあるんだけど。自分はそれが正しいと思ってたんだろうし。周りもそれを認めていただろうし。「会社を信じ会社に尽くす」以外の考え方は抹殺されていたんだから。社員も被害者かな、と思ってしまうこともある。

 けどやっぱり思う。あえていわせてもらうけど。撲殺覚悟。

 やっぱり「会社に頼ろう」って考えた時点で負けなんだと思う。最後に頼るべきものなんてどこにもないよ。あるとすれば自分だけ。会社なんて利用してやる、位の気持ちで行かないとバカ見るだけだと思う。逆にそれくらいやってた方がうまく世の中突っ走れるんじゃないの?実際に自分が働くようになってからなおさらこの思い強くなってきています。

 世の中すでに「会社なんて当てにはならない」って思ってる人はいっぱいいると思う。その一方でやっぱり「まさか・・・」と思ってるのも事実だと思う。でもやっぱり振り切らなきゃだめだって。振り切れなきゃ、会社と一緒に心中しちゃうだけだって。

 私にとっては今回の山一の倒産、悪いけど格好の笑いのネタでした。「どうしよう・・・」なんて苦悩するよか、笑い飛ばした方が案外割り切って見られるもんなんだよ。


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