居眠りお嬢さん


 くわぁ、今日も眠い〜。調子乗って2時まで起きてる んじゃなかったなぁ。やっぱ今日も電車一本遅らせよっと。 タバコタバコ。

 どうでもいいのですが、この男の脳ミソの中に やる気とか世間体とか、もちっと人様にお見せできるような 感情ってのは入ってないんでしょうか。

 はい。ありません。言い切るなよ俺。

 とまぁそんな感じでいつもの如くJR高蔵寺駅の 溜まり場、コミュニテーコーナーに足を踏み入れた 私。するとそこには明らかにいつもと違う風景が 広がっていました。

 とはいってもヤク中の男二人が包丁でぐさぐさ殺り あってたとか、80歳のおじいちゃんが78歳のおば あちゃんを人質にとって展示ショーウィンドーの中に 立てこもってたとかそうゆうのじゃありません。

 ヤだよそんなの。

 今、私の目の前でうら若き女性が円形ベンチの1/2 を占拠しつつ、ぐーぐーと寝息を立てています。 年の頃なら22か3といったところか。

 「はぁ?」一瞬目を疑いました。60過ぎた 死にかけのじーさんがいびきかいてる姿は何度か 見たことがあるけど、まさか女性のこんな姿を 見かけるとは。しかも目の前で。

 いわゆる電車の中でよく見かけるうとうと眠りとは訳が 違います。居眠りというより完全な熟睡。ベンチにどかっと 寝っ転がり、大の字になったまま動こうともしません。 女性の手元にはタバコと100円ライターが 無造作に転がっています。

 で、しかも。この方、ミニスカートなんかはいています。 うわっ、そんな格好してるのにそんな格好で寝てたら、 えっと、その、見えちゃうじゃんか。見え・・・見え・・・白。

 その時です。第三の方向から強烈な視線を感じました。 はっと我に返り、周りを見渡す私。

 今まで、あまりのインパクトにベンチ1/2を占拠してる お嬢さんしか目に入ってこなかったのですが、残りの ベンチ1/2に、地元高校のセーラーを身にまとった 女子高生と、100%純粋まじりっけなしのオバサンが 並んで座っています。そして揃って睨んでいます。 誰を。私を。

 すかさず目をあらぬ方向に背け、本来の目的であった タバコに火を付けました。ちょっとわざとらしかった かもしれませんが精一杯の抵抗。ちらっと横目でその 女子高生&おばさん凸凹コンビを眺めてみると。

 まだ睨んでるよぉ。違うよぉ、誤解だよぉ。 そりゃ欲情に負けてそのまま上にのしかかるとか しようもんなら立派な犯罪だしそんな目で見られても 致し方ないだろうけど、まだ未遂ですよ、 もとい、そんな事考えてもいやしませんよ。 私だって大人ですよ、オ、ト、ナ。

 しかし、こうゆうのはさすがに女性間の連帯って やつなのかな。女子高生なんか「あこの野郎足 覗いてやがんな見んじゃねぇよタコあこいつ スカートの中まで見ようとしてやがんなふざけんな 下衆がぶっ殺すぞしめるぞこの糞野郎」とでも 言わんばかりの恐怖目線でしたから。恐かったよ〜。

 しかし、足おっ広げて熟睡してるお嬢さんと、それを 守るようにして座ってる女子高生とおばさん。 端から眺めると確かに奇妙な風景だな。

 ひょっとしたらこの3人、身内だったりして。 さしずめこの寝てるお嬢さんがお姉さんだったとしたら その妹と母親、とか。

 前日、将来を誓ってた人に突然振られてヤケ酒あおってた とか。べろんべろんになりながら携帯で「私死ぬ〜」と 絶叫してたとか。家族が一晩かけて必死に探したにも 関わらずなんてこたない、駅のベンチでぐーぐー寝てた とか。怒る気もしなくてそのまま座りこんでしまった妹と 母親だったりして。う〜ん、ドラマ。

 は。何考えてた俺。

 そんなあほうなこと考えてるうちにも時間は過ぎ、 いい加減乗らなきゃいけない列車がホームに到着しました。 タバコはフィルターに火が付く寸前です。タバコを灰皿の 水の中に放り込み、お嬢さんに背を向けて改札口へと 急ぎました。もうちょっとこの奇妙な風景、見たかった んだけどね。

 それにしてもお嬢さん、気持ちよさそうな寝顔してたな。

 いいなぁ。


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