人間のクズ世相を占う


 1998年7月12日。日曜日。

 阪神巨人戦を横目で眺めつついつもより早めに 夕食を取る。「ごちそうさま〜」と同時にすばやく 風呂に入る。さ、これで寝る準備は完了。

 あと用意するもの。ポットに入れたアイスコーヒー、コップ、 タバコ(2ケース)、灰皿、携帯電話、あと新聞っと。 あらかじめトイレも行って。

 んじゃちょっと今日はテレビ借りるね〜。

 そうです、今日は待ちに待った参議院選挙の投票日。 とは言っても投票そのものはどうでもよくって、 いや、よくないんですけど、それよりも お楽しみはその夜各テレビ局で始まる選挙速報。

 世の中、投票なんか行かなくてもこれだけは見逃さない って人は結構多いのではないでしょうか。 そりゃそうだわな、普段はただ威張り腐ってるだけの クソジジイ共が、再度6年間の身分優遇を受けられるのか、 それともただの無職に成り下がるのか。一夜にして 天国と地獄を同時に垣間見れるんですから これを見逃す手はないでしょう。下手なドラマなんかより 数倍面白いと思うんだけどね。

 さぁて、今回はどんな結末が待っているのかな。 スイッチオンっと。

 とりあえず一通りチャンネルを流してどこが先走ってる かを見極めます。これは選挙速報見る上での重要なポイント。 民放ならではの一大イベント「当確取消」ってのが ありますからね。一度当確が出て、喜び勇んでバンザイ三唱 やったはいいけど、その後逆転されて「あらら?」と なったときの候補者の表情。人間、こんなに印象深い 表情ができるんだな、と改めて認識させられます。

 さぁて、今回も間違えそうなのはどこかな・・・。あれ?
「1・0・0・0・0・0・0・0・0」
「0・0・0・0・0・0・0・0・0」
「0・0・1・0・0・0・0・0・0」
 あれ〜?確かにまだ8時半とかなんだけど、今回は やけにどこも慎重だなぁ。前だったら開票率0%でも バンバン当確出してたのに。さすがに毎回ミスできないぞ、 ってことなのかな・・・・お?

「52・27・14・9・2・1・0・15」

 おいおいおい、そりゃいくらなんでも突っ走り過ぎじゃない のかねTBSさんよ(注:数字はすべてウロ覚え)。まだ開票 始まるか始まらないかって所なのにそこまで決め付け・・・。

 あ、出口調査か。なぁんだ。

 どこの局もやってるよねぇ、出口調査。そういえば私も 一応毎回選挙行ってる人間だけど、今までにただの一度も 出口調査やってる人に巡り会ったことがないな。 そういえば選挙中にも関わらず家の周り選挙カーに どなられることもなく静かな日々だったからなぁ。 高蔵寺ニュータウン、重要視されてないのでしょうか。

 お、そんなことはどうでもいいんだ。そろそろ始まるでしょ。 御開票。もうじらさないで早く見せてってば御開帳。 すいませんベタです。

「開票1%、○○候補、当選確実です。」
「開票0.3%、××候補、早くも当確でました。」

 お、始まった始まった。でもやっぱり今回は皆当確出すのは 慎重になってるみたい。こりゃ用心深く見てないと当確取消は 拝めそうにないな。まぁいいやどうでも。

 こっからはもう流し見しつつ、 候補者一覧が載ってる新聞に丸を付けつつアイスコーヒー をごくり。本当はここでお酒飲みながらって方が 多いのではないでしょうか。ビールなり日本酒なりを ちびちびたれながら、テレビの画面に吠え立てる。 これぞ正しき選挙速報の見方なのでしょうが、 いかんせん私下戸でして。 こうゆう時はさすがに「あ〜こうゆう時にビール飲めたら なぁ」とか思いますね。でもまぁコーヒーも おいしいからいいや。人は人、自分は自分、されど仲良し。

 しっかし今回自民党大苦戦みたいだなぁ。投票率 50%超えちゃったんでしょ?俺今回もせいぜい45%程度で、 鉄板的な組織票選挙になっちゃうと思ったんだけど。 みんな投票行っちゃったら「投票率活用法」のギャグの 前提崩れちゃうじゃんかよ。みんな投票行っちゃだめだよ。 って俺は自民党幹部か。

 でも都市部だと投票率1%上がるだけで投票総数はウン万と 跳ね上がるからなぁ。こりゃもう完全に鍵握るのは浮動票やね。 組織票ガチガチの選挙やってる自民とかは苦戦しそうだよなぁ。
「○○県、開票23%、民主党××候補当確です。」
「××府、開票30%、共産党××候補当選確実。」
 おいおいおい、自民党候補落ちまくってるよ。これって 苦戦どころか惨敗じゃないの?ていうかテレビがそう言って たんだけどね。もう画面では「自民党惨敗」「橋本首相辞任」 のテロップが踊りまわっています。

 あら〜、広島2議席取れなかったよ。お、京都もゼロ。 うっへ〜。和歌山もだぁ。げげっ、岐阜負けたの!?

 キャッキャ言いながら速報に釘付けになってると、 ふと見覚えのあるポマード頭が画面に映りました。 そろそろ各党首脳に選挙の感想を聞く時間がやってきた ようです。

 うわ〜、完全に顔から血の気引いてるよ。なんか 人3人殺した後に自供する犯人のような顔つきだな。 あっちゃ〜、質問に対して全然切り返せてないよ。 逃げるとかそうゆうレベルじゃなくて、完全ノーガード で顔面にラッシュ浴びてます。お〜い、誰か タオル投げてやれよ〜。バカ勝ちしてる野党の党首とは 対照的だねぇ、これ。 正直見てひいたぞ。・・・・ビデオ撮っときゃよかったな。

 さて、そうこうしてる内に午後11時。 「そろそろいいでしょ」と親にテレビ消されてしまいました。 う〜。自分の部屋にテレビないとこうなっちゃうんだよなぁ。 とぼとぼと部屋に戻ります。

 しかしここであきらめる訳にはいきません。という訳で 即刻インターネットに接続し、選挙速報やってるサイトを 漁ることに。

 そこまでせんと寝ろよ、とツッこまれそうですが、そうは いかない事情がある。

 わてらがおひざ元、愛知県の当確がこの時間にも関わらず 一人も決まってないんです。定員3人で、1万票圏内に4人が ひしめく超大混戦。開票速報が更新されるたびに順位が 変わってる。

 あらかたの体勢も決まってる事もあり、私の関心は 愛知県選挙区ただ1点に絞られました。

 愛知県の開票速報のページを1分おきにリロード、 リロード。
「ほ〜、自民3位まで盛り返してきたよ、意地だねぇ。」
「わ、また共産が2位で民主3位だ。」
「ひえ〜、得票差500票しかないよ、誤差だよこんなの。」
 更新される画面を見ては一喜一憂。馬鹿です。

 12時頃、民主候補に当確、1時頃もうひとりの民主候補に 当確が付き(時間はうろ覚え、すまぬ)、そろそろ「寝ようかなぁ」 という欲望が頭をちらつきはじめます。そもそも明日は仕事あるし。

 でも何ででしょうね。なぜか見ちゃうんですよ。 画面は自民の大木候補(3位〜4位)と 共産の八田候補(4位〜3位)が500〜5000 票差のデッドヒートを繰り広げてます。あ、また3位。 あ、今度は4位。どっちだ。どっちなんだ。 どっちが来ようが俺には関係無いが一体どっちなんだ!

 「くわ!!どっちが勝つか見極めるまでは寝れん!!」 頭の中でパッカパッカとお馬さんがダートを駆け抜けてます。 もう意地。自民が勝つか共産が勝つか、私の睡魔が勝つか。 いつの間にか勝手に三つ巴になってます。何の根拠もなく 勝手に大木さん八田さんと勝負しています。「オレがこの 大激戦を見ておかないと誰が見るんだぁ!」 そんなこたマスコミさんとか言う方が勝手にやってくれますって。 大穴に全財産突っ込んだオヤジ並に理論がめちゃめちゃに なってます。馬鹿です。

 もぉそろそろヤバいかな・・・とさすがにわずかばかり残っている 理性が頭をかすめた1時45分頃 でした。共産候補の頭に赤いバラの絵と当確の文字が 表示されました。おめでとう八田さん。今のうちに喜んで おいてください。大木さん残念でした。3年後頑張りましょう。

 そして6時間弱の長丁場お疲れさまです藤原君。 「勝った。勝ったぜ、見届けたぜ!」 何事にも代え難い達成感を味わいつつ、パソコンの電源を 切り、布団に倒れ込むのでありました。

 ごめん、やっぱ鉄板馬鹿だわ俺。


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