新着別 分類別入場行進。
運動会ってのが大嫌いでした。
確かに私が類希に見る運動音痴だったということもあります。 マラソン大会では常にブービーから5分以上というぶっちぎりの 差を付けられて最後にゴールインし、生徒全員から 割れんばかりの拍手を毎回浴びてたとか、逆立ちの練習してて 自分の体を両腕で支えきれずに頭から落下し、そのまま 保健室に運び込まれたとか、その辺の話しだしたら キリがないのですが。
ま、そんなことはどうでもいいんだ。何よりもイヤだったのが 運動会で必ずある入場行進。この入場行進の練習が 血反吐吐くほど嫌いでした。
なんでこんなこと思い出したか。たまたま親に借りっぱなしで 鞄の中に入ってた群ようこのエッセイにこの入場行進の ことが書かれてたからなんです。
基本的に私、小学校から高校までの一切の記憶は抹殺したい、 二度と思い出したくないと思っている人間ですので、 無意識のうちに思い出すのを避けてたのかもしれない。
なのに、このエッセイ読んでたら、鮮明に その時の記憶、思い出しちゃったんですよね。 思い出したまま頭から離れない。
9月の初め、一番始めの体育の授業。残暑厳しく、 30度は確実に超えていたと思う。
「今日から1ヶ月間、体育祭の練習するぞ。気合入れてけよ。」 体育教師の張り切った声が校庭にこだまする。
体育祭の練習、といってもやることといえばこれしか ない。入場行進の練習。「入場行進の得点比率は高いからな。 優勝したいんだったらとことん練習しろよ。」 爛々と目を輝かせながら教師が叫ぶ。
このクソ暑い中、音楽に合わせて「いっちに、いっちに」と掛け声がかかる。 それに合わせて皆が足を揃えて行進する。 「手は垂直に!振りは30度!一人ずれたら見苦しいぞ!」 根性ねじ曲がっているとしか思えない指導の名を借りた罵声が響く。
「はぁ、なんでこんなことするんだろ。バカじゃねぇのか。」 そんな事を思いつつ、私はぼけ〜と前に前にと歩いてた。
その時だった。前を歩いていたヤツが突然グラウンドに ぶっ倒れた。
「てめぇ何ちんたらやってんだ!手足バラバラだ!」
教師の怒号がグラウンドに響き渡った。たらたらと歩いてる 生徒の足にケリを入れたのだ。行進の順番待ちを していた他のクラスの生徒も、怪訝そうに現場を見つめている。
「やる気ないんだったら帰れ!邪魔だ!」
見せしめだな、と思った。ケリ入れられた生徒は あからさまに怒りの表情をちらつかせつつも、それを 言葉で表現できないでいる。ただ無言のまま、ジャージに ついた砂を払い落としてる。周りの生徒も同情と憤慨の 交ざったような目つきで彼が起き上がるのを待っている。
「あ、みんな考える事一緒なんだな。」と思った。 もし今の自分がその場所に いて同じ立場でケリ入れられたとしたら、キレて暴言ぶちかまして 教師のプライドガタガタにさせてから帰ってたに違いない。 しかし現実にケリ入れられた生徒に刃向かう術はなかった。 私にもなかった。ただできることは、黙って教師の言う 事を守ることだけだった。
それから体育祭当日まで、来る日も来る日も入場行進の 練習は続いた。相変わらず教師の罵声は衰えることなく、 むしろ体育祭が近づくにしたがって殺気立っていった。 竹刀持ってあからさまに生徒の動きを監察してるヤツまで いた。動きがズレてる生徒がいたら、すぐさま竹刀が 飛んでくる。一応叩く時には力が入ってないので、痛みは感じ ないものの、生徒を威圧する意味では十分過ぎる やり方だった。刑務所の方がまだ楽だったと思う。
もっとも驚いたのは、体育祭が近づくにつれ、生徒の目つきが 豹変してきたことだった。始めは全員がイヤイヤやってた はずなのに、いつの間にか目つきがあのバカ教師と同じ 目つきをしている。動きがトロい生徒に対し、 「しっかりやれよ、優勝するんだからな」と説教までしてる。 人間ここまで変わるのかと驚いた。
教師とかは「クラスの 団結力を高めるため」「己の向上心を養うため」とは 言っている。所詮口先だけだってのはバカな私でも感じた。 でも周りの生徒の反応は「あれだけ先生も頑張ってるんだから がんばろうよ」「あと1週間ある、もっと奇麗にやろう」 ともはや疑問すら持たなくなっていた。気持ち悪かった。
私はといえば「なんでこんなことさせるんだろ」と思いつつも、 ただ竹刀で叩かれたくないためだけに、蹴りを入れられないため だけに、必死に周りに合わせていた。あるのは重苦しい義務感 のみだった。
謎が解けたのは体育祭当日だった。本番当日である。 何十回何百回とやらされた行進を校長・教頭からPTA会長、 近くに住んでるお偉いさんの前で披露する。
いい加減うんざりしてた私は、「行進中は絶対によそ見をするなよ」 という禁を破って、ちらっとそのお偉いさん招待席の 方を盗み見た。
全部見てしまった、そんな感じだった。
校長、顔真っ赤にして御満悦になってやがる。 殺人に快楽覚えた鬼畜が、ナイフ刺した瞬間に浮かべる恍惚の表情、 そんな想像をしてしまう醜い笑い顔だ。顔で笑いつつ目が凍っている。
その横で竹刀持って暴れてたヤツがへらへらと 笑ってる。いっちょ前にもみ手なんかしてやがる。 あれだけ練習させてた入場行進なんか目もくれず、 ひたすら校長に話し掛けてはケタケタ大笑いしてやがる。
今時ドラマでもお目にかからない、余りにも安直な 光景。怒りとか呆れとかそんなもんとっくに通り越して、 気が抜けてしまった。
これか。結局こいつらの自己満足だけだったんだ。 これが好きなだけだったんだ。 どうりで理由なんか無い訳だ。
周りでは近所の父母とかが「まぁ、きれいな行進ねぇ。」 と無邪気に喜んでいる。
遠くで見りゃ何でも奇麗なんだよ。
グラウンド裸で引き回されてる気がした。 とにかく一秒でも早く、逃げ出したかったのを覚えている。
今となっては校長や教師の名前も忘れてしまいました。 もう一生会うこともないし、今更吊り上げたところで 意味ないし。実際体育祭を「よい思い出」と して今を生きてる人だっている訳だからね。 そんな人の思い出までブチ壊すつもりはありません。
ただ、生徒に北朝鮮並のマスゲームやらせて悦に入る ことができる人間が日本に存在している。余りにも 恐いんです。こいつら、戦争になったらなんのためらいもなく、 生徒を戦場に叩き込むんだろうな。
ギャグにしてはリアル過ぎてヤな締めだな。話が重くなってしまいました。ごめんね。