新着別 分類別ノートパソコン奪還作戦
「た〜だいまっと。」
9月9日(水)午後10:30。珍しくフラフラになりながら家への 帰還を果たした私。いやぁ、今日は大変でした。 某トヨタ行ってバグ対応してたはいいんだけど、事前に目星つけてた ところと全然違うところにバグあってさぁ。予想以上に時間かかっちゃったよ。 なんで正常=0、異常=−1と返すところを両方0で終わらせる かなぁ。これじゃバグる訳だよ。
ブツブツ言いつつ、夕食の豚肉生姜焼きをかきこみます。 ふと黒い霧の存在が脳裏に見え隠れします。
「ん?・・・・・・なんか忘れてるような・・・・。」
ま、いっか。思い出せない事ならたいした事じゃねぇや。あ〜肩凝った。風呂はいろっと。今日一日重い荷物しょってたから 疲れちゃった。某トヨタ行くときには常にノートパソコンを 持ち歩きます。手ぶらでいったってマシン貸して くれないし、どっちにしろ自分の端末で作業したほうが 格段に能率違うし。
「あぁ、やっぱり日本人は風呂だねぇ。」呑気に湯船に浸かってます。 ま〜だ全く何にも思い出してません。それどころかいい湯加減に 黒い霧の存在すら忘れています。
風呂上がり、いつものようにパソコンの前に陣取り、メールチェックと Webチェック。最近ちょっとメールの返事遅れ気味になってるな。 今週末で一気に返事出してしまおっと。すっかり目の前のエサに 夢中になってます。おいおい、なんかあったんじゃねぇのか。
再びその妙な不安感を覚えたのは、もう既にベッドの上でした。 一度は電気消して、完全に寝に入ったはずなのに、目がさえて 眠れなくて、本ぱらぱらとめくってた午前2時。 「あれ?なんか忘れてたんだよな・・・何を・・・?」
意味もなく、ベッドの周りを見回します。本当だったら 見回して終わるのが普通なのですが、これがきっかけになりました。 なってしまいました。
「あれ?黒いバッグ・・・どこ・・・?」
「これあげるよ〜」と会社の人にもらったサンのノベルティーの リュックサック。もらったと言う割には結構頑丈で、 会社と出先での荷物の移動や 小旅行に重宝しています。で、今日もこのバッグにノートパソコン 一式を入れて持ち歩いてたのです。が。
ない。そのリュックがない。
自分の車の中に置き忘れてきたかな?と車内に戻って 探してみる。やっぱりない。
もやもやとしてた不安が、確実に現実のものとなっていくのを 感じていきます。
えっと、俺今日何やってたんだっけ・・・。過去の記憶を溯ります。 バグ取りが終わって、片づけてパソコンリュックに放り込んで、ちゃんと 背負ってるよな、そのときは。愛環こと愛知環状鉄道の三河豊田駅まで えっちらおっちらと 運んでと。で、そっから高蔵寺に着くまで爆睡しちゃったんだよな。 いい子守歌になったな、カスタネッツ「MARKET」。 そんなこたいいんだ。えっと、それで高蔵寺駅で駅員さんに起こされて ・・・そのまま立ち上がって・・・
そのまま立ち上がって・・・・!?
すべて思い出しました。現実と対峙しました。そして押し潰されました。
「ノートパソコン、駅の網棚に置き忘れた!」
全身から血の気が引いていくのを感じます。冷や汗がだらだらと 流れ出ます。
プログラマ殺すのに刃物はいりません。端末壊せば十分です。 実際、この類のミスはセキュリティ漏洩の教科書に必ず 出てくるといってもいい定番中の定番です。
で、よりによってそんなド定番をやらかしてしまいました。 どどどどどうしようどうしよう。
落ち着け、俺、落ち着け。ちょっと計算してみるんだ。えっと、 あのノートパソコン自体は20万もいってないよな。旧型だし。 でも、中に入ってるデータ。前のプロジェクトでのプログラムの全ソース マスター。これはバックアップあるな。あと、今のプロジェクトの 担当箇所のコード。これもバックアップある。あと仕様書・ 要件一覧やスケジュールのドキュメント、げげっ、これ バックアップ無い。ていうか、無くす無くさない以前に、これらの データ全部、社外秘扱いじゃねぇか。
えっと、無くした、となったらさすがに報告しないとまずいよな。 業務に絶対支障でるから、話すぐにお偉いさんに伝わるよな。 ていうか、これ開発室レベルだけでおさまるのか? データとかも一緒に流出するってことになれば、全社の 問題になるし、当然ユーザ側にも・・・・
うっぎゃあああ!出入り禁止じゃすまねぇ! クビはともかく、万が一賠償問題になったら個人レベルで すませられることじゃねぇぞこれ!
落ち着くどころかパニックになってしまいました。
どうする。どうする。どうしようもなくなったら 腹くくって正直に告白するとしてだ。まずは独自に 必死こいて捜索してみるしかないな。まずは抵抗 してみよう。
結論出した時には既に深夜3時。まず愛環の駅に電話かけてみて、と。 プルルルル、プルルルル。出ない。 まぁこの時間では当然か。えっと、始発が動き出すのが5時過ぎとか だよな。その時間にもう一度電話かけ直すことにするか。
4時半に捜索再開するとして1時間半ある。 どうする。寝るか。そうだ、そうしよう、寝よう。 ちょっとだけでも寝ると寝ないとでは大違いだ。 目覚ましかけて、電気消して、おやすみ。
・・・・・・・・・・ジリジリジリ。
うぅぅ。結局眠れなかったよぉ。現実逃避しようとして 考え事してたのが仇になっちゃいました。
とはいえもう時間的には余裕がない。という訳で 本格的にノートパソコン奪還作戦、開始します。 奪還っててめぇが勝手に忘れてきただけだろうが、という ツッコミは正確すぎるので却下。
タウンページを引っ張りだし、エンジェルラインひき まくって、愛環と名前のつく 全駅に電話。プルルルル、プルルルル、プルルルル。 どこも出やしねぇ!まだ寝てやがるんかコラ! イライラするのはわかるがその怒りを駅員にぶつけるのは 間違いだと思うぞ、藤原。
ちょっとWebで時刻表確認。高蔵寺駅の始発が5:55か。 まだ時間は早いけど、もういっその事でかけていって 直接情報得たほうが早いな。
背広に着替えて、会社に行くための準備も整えて、と。 あ、今日は特別にチヨビタドリンク2本ね。ぐびぐび。 んじゃ行ってきます、と車をJR高蔵寺駅へと走らせます。
万が一心無い人間によってデータが見られたらどうしよう、 あのディレクトリにしまいこんでるあんなデータや こんなデータが人様の目に触れたら、私は今後どうやって 生き延びていけばいいのか、精神異常者として 泥水をすすりつつ生活していかなければいけないのだろうか、 そんな事を考えつつ、辿り着きました、高蔵寺駅。ていうか 余計なこと考え過ぎ、オレ。
まずは公衆電話に張り付き、前回不発だった電話かけまくり作戦を 再度実行。しかしいまだどこの駅も電話にでてくれない。 となれば、生身の人間に聞くのが一番。
あくびしながら改札番をしている 駅員さんに聞いてみました。年齢20代前半、今後10年間、 高蔵寺駅の将来を担う、そんな人材かと思われます。ってそんな推測してる 場合じゃないって。あのぉ、昨日愛環で黒のリュック忘れて しまったんですけど。
「あ、愛環ですか。えっとですね。愛環の忘れ物に関しては 高蔵寺では保管してないんですよ。」
え、そうなの?てことは?
「えっと、愛環さんの場合は・・・・・あ、ここだ。 北野なんとかという駅があるんですけど、そこの車庫に集められるんですよ、 忘れ物は。」
ふえっ?車庫?
「えっと電話番号・・・・こちらの方に電話して聞いてみて もらえませんか?こちらだったら今の時間でも人いると思いますので。」
そっかぁ、車庫か。ずっと「忘れ物は駅にある」と思い込んでたから なぁ。それは気が付かなかったや。ってことは寝る間惜しんで タウンページやエンジェルラインで電話番号調べてたの 全部無駄足だったって訳ね。
ま、何にせよありがとう、JR高蔵寺駅の駅員さん。高蔵寺の将来は 貴方に託しましたよっ。さて、電話電話。
プルルルル、がちゃ。
「はい、愛知環状鉄道です」
「すいません、昨日、電車の中に黒いリュックを忘れてしまいまして。」
「黒のリュックですかぁ。中身何が入ってます?」
「ノートパソコンです。」
「ええと・・・・・・」ええと、って言ってるってことは・・・・・・ひょっとして・・・ ひょっとして?
「あ、ありますぅ。こちらで御預かりしています」
「・・・・・やったぁ!!!」
左手に携帯電話、右手を高々と掲げガッツポーズ。 その瞬間、たまたま新聞配達してたおばちゃんと目が 合ってしまうというささやかなエピソードが私を 祝福してくれました。
顔がみるみる赤くなるのを感じつつ「今からすぐに 取りに行きます。」とお返事。なんでも網棚に おかれたまま、ほったらかしになっていたとのこと。 網棚の荷物って気付かれにくいから、そのまま 盗まれずに戻ってくる確率は高いんだそうです、と 電話口のおっちゃんのお言葉。
そっかそっか。置きっぱなしになってたんだ。 何にせよ無事が確認できてよかったよかった。 うんうん。えぐえぐ。えーんえーん。
は、泣いてる場合じゃなかった。とにかく早く ノートパソコンを確保しなきゃ、と速攻で愛環に 飛び乗ります。
ガタゴトと電車に揺られること1時間。 北野なんとかとか言う駅に着いてから、さらに15分ほどてこてこと 歩き続けます。その長い道程はあたかもあてのない 出口を目指して旅を続ける若者のよう。思わず「なのに〜 なのに〜なぜ〜なぜ〜」と一人輪唱してしまいますね、 こうゆうときって。
しかし若者と唯一違うのは私にはゴールがあることです。 誰だっ、生い先短いと突っ込むヤツは。そんなこんなで 辿り着きました、事務所兼の愛知環状鉄道車庫。
唯一ある窓口らしき部屋でテレビ見てたおっちゃんに 「あのぉ、先ほど電話した者ですけど・・」と告げると、 「あぁ、ちょっと待っててね」と裏にひっこみ、 あっさりと捜し求めていたバッグを手に帰ってきました。
よかったよ〜、あったよ〜。念のためにバッグを開けます。 ありましたありました。IBMシンクパッド315D。
再会を喜びつつ、ひしと抱きしめたりすると正真正銘の 馬鹿なので、でもやったらそれはそれでウケ取れるかな、 などと考えつつ、丁重に駅員さんに御礼を述べ、車庫を 後にしました。
やっぱりやったらちょっとおいしかったかな。
その後、その足で勤務先の名古屋に何食わぬ顔して 出向き、徹夜明けの体に鞭打ちながら一日仕事 してきました。喋りたい喋りたい、喋ってウケ取りたい という欲求を、心を鬼にしてこらえました。 睡魔には負けまくって15回程KOされましたが。 「究極の眠気さまし」モカ飲んでも眠くなるんだもん。
なんにせよ、今のところ会社の誰にもバレてません。 このページ読まれない限りは、今後もバレることは ありません。ま、バレる頃には笑い話にできるでしょう。
とにかくよかったよかった。今言えるのはただただ、それだけです。 こざかしい理屈なんか、つけられません。
ほっ。