人月邪推物語


 へ?これから見積もり計算の打ち合わせ?

 なんすか見積もりって?

 はぁ。これを基に上に言ってお金を請求すると。 お金ないと給料も出ないと。ほーい。じゃあわかんないと 思いますけど出席はしますよ。

 という訳で先日、今度から参加するプロジェクトの 見積もりに立ち会う機会ってのがありました。

 一応わかんない方のために説明しますと、企業向けに システム開発するときには、実際にモノを作る前に 「これからだいたいこうゆう規模のシステム作りますよ」と 大体の予測を説明し、クライアントからお金を頂きます。

 って合ってるのかな、この説明。何分今まで「じゃあこれ 作ってね」「はーい」と鵜飼いの鵜のような仕事しかしてま せんからね。実はこうゆう事に対する経験ってゼロに近いんです。

 ま、いいや。それで上に説明するからには何かの基準が 欲しい、という訳でよく使われる数値単位のひとつが 「人月」というやつ。

 定義、として言えば「1ヶ月に1人の人間がこなせる 仕事量=1人月」ということになります。

 そもそもこれほど単位として成立していない単位ってのも 珍しいんだけどね。何なんだよ、1ヶ月にこなせる仕事量って。 バリバリのSEと老人と赤ちゃんじゃ全然仕事量違うじゃねえかよ 訳わかんねぇよ。と突っ込みたいところなんでしょうが、 残念ながらそれに変わる方法ってのが見当たらない。 (本当はあるのかもしれんけど、わからん(笑)) という訳で、いいかげんな数値であるというこた百も承知で 人月の考え方を使い続けている訳です。

 んな訳でお話の方に戻りましょう。

 メンバー全員が集まり、今回のシステムで作らなきゃいけないねぇ、 という項目を洗い出します。「これはいるよね。」「となるとこれも 必要だな」「げぇ、これもじゃん〜」といった感じでやることリストに 項目が並んで行きます。私は発言することなくほけ〜と見てるだけ なんですが。

 まぁこの洗い出し自体は前から行なってる作業なので、特に時間を かけることなくさっくりと終了。そりゃそうだわな。今からモノ作るのに 何作るのかわからん状態じゃどうにもならねぇ。

 「さてと。んじゃこれらに対して人月割り振りましょうか。でも いちから話合ってたららち開かないから、各自それぞれどれくらい かかりそうだな、というのを主観で結構ですので書いてもらえますか?」

 ・・・へ?ってことは俺も数字考えなきゃいけないの? ほけ〜と眺めてればいいと思ってたのにぃ。という訳で回ってきた やることリストのコピーに「自分がかかると思う人月数」を 書いていくことになったのですが。

 ・・・・・・わかんねぇ。だいたい1人月ってどれくらいなんだよ。 その基準がわかんねぇよ。それわかんねぇとどうしようもないよな。 ねぇすんません、この基準って何なんです?

「う〜んとね、カン」
「根拠はないよね。」
「なんとなく1ヶ月かな〜という感じ」

 そんなもんなんかい(笑)。

「ていうか、毎回思うんだけど。これムダな作業だよなぁ。」

 ほほぉ。

「確かに。少なくとも自分は信用しないよね。」

 ふふぅ。

「これ作らなきゃ金降りないもんなぁ。でなきゃこんな不毛な作業 やらないよ。」

 へぇぇ。

 やっぱこの辺みんな考えてるこた同じなんだなぁ。やりたく ない作業なんだけどやらなきゃ先に進めない、だからやる。 この辺の認識は完全に一致してるね。

 ・・・へ?っていうか書いてないのもう俺だけ? う〜ん基準わかんないよぉ。数字浮かばないよぉ。

 うん、仕方ない。ちょっと見せて見せて! ・・・・こんな感じ?じゃあこの数字ちょこっと書き換えて。 は〜いできましたぁ!

 って俺自分の頭で考えてねぇってば。

「大体みんな似たような数値になったね。」
「だいたいこんなもんか。」
「んじゃこれ叩き台にして上に出す数字決めますね。 ありがとう〜。おしまい〜。」

 あ、終わりですか。おつかれおつかれ。俺何もやって ねぇけどな。

 さて、改めて検証してみましょか。

 とりあえず人月ってのが非常にあいまいな尺度でしかない、 というのは誰もが認識しています。実作業では役に立たないのは 確実ですし、実際、上の人間が見ても信用できる数値でもない。

 それにも関わらず人月、という概念は生き続けています。

 お金の流通、を考えた場合に、これ位しか判断できる 数字が無いんですよね。もっと言えば、上の中でもさらに上の 「財布握ってるヤツ」を説得するためだけの数値。

 これが人月が生き延びてる、生き長らえる唯一の理由かな、と 勝手に邪推してしまうのですが。

 この制度(あえて制度と呼ぼう)、紆余曲折経て確立された んだろうな。

 もっと正確に仕事量算出して妥当なお金もらうんだったら、 物作り終わってからやった方がいいに決まってる。人件費、 プログラムの量や質など、客観的に判断できる材料は人月に比べても ぐっと増える。

 でもこのご時世、お金がなきゃモノも作れない。おまんまも 食べられない。

 だから先にお金をもらうことになる。でも「○○作るから 5000万くれ」って突然言ったところで首縦に振るヤツなんぞ いる訳がない。

 だから理由をつけて説得する。でも説得する材料がない。 クライアントは頭固いから、言葉並べるだけじゃ信用してくれない。 なにかいい手は・・・。「そうだ!人月だ!これだったら数字が出る!」

 かくして、人月という単位がソフトウェア市場を駆け巡り、 極めてあいまいながらも基準数値となっていくのである・・・・。

 ってただの推測そこまで膨らませてどうしますか俺。 当然ながら根拠も何もないデッチアゲの戯言なんで 信用しちゃダメだぞ>読者御中。

 でもなぁ、こうゆう人月の考え方とか見てると、つくづくソフトウェアって 「水商売」なんかなぁ、と思ってしまいます。

 仕事に対する単価基準なんかわかったもんじゃない。個人で どれだけの仕事こなせるかもやってみなきゃわからない。 結局は決め打ちで金額でっちあげるしかない。 そんな中でもきわめて根拠の少ない 基準を基にお金をやりくりし、実際にそれで業界が生き長らえてしまう。 そんな世界だよ。 あいまいさをどう捉えようが相手に通ってしまえば勝ちだから、 信用第一な人もいればヤクザもいる。

 コンピュータにあいまいって言葉はなくっても、人間次第で どうにでも転んじゃうんだよね。恐くもあり、面白くもありです、 この業界。

 でもまぁいっか。どうせあと数十年もしたらソフトウェア産業なんて 言葉は死滅するに決まってるんですから。

 さんざこねくりまわした挙句よりによって結論がそれかい。

 <補足>今回、「人月」だけに絞って話進めてるんですけど、 結構この世界、奥が深いんですよね(ドロ沼とも言うけど)。方法論 ひとつ取ってみても様々な見方、アプローチがある訳で。 簡単に「この方法が絶対」ってのは存在しないのかもしれません。 それだけに人間の「私情」が介入しやすいから、端から見てる分には かなり面白い見せ物になっちゃうのかもしれませんね。

 お、我ながらナイスフォロー(そうか?)。


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