一週間だけの新入りさん。


 とある月曜日、私の通ってる派遣先の会社に、新しくWさんという人が やってきました。

 私と同じ派遣の人。歳も大体同じ位。「あぁ、はじめまして〜」てな 感じでビジネス古式に乗っ取って名刺交換。

 いよいよプロジェクトが本格的に動き出すということで、 じゃんじゃか人を取り出したようです。Wさんだけじゃなく、 AさんだのVさんだのQさんだの、アルファベットは適当に振って いるだけで実名と何の関連もないんですが、要するに初めての人が わんさかいた訳です。

 上司な人が新しい人達を集めて、これから何をやるか説明しています。 私はキーボード叩きながら呑気に「ふ〜ん、人増えるんだ〜」などと 考えてました。

 火曜、水曜、木曜と進むに連れ、 次第に新しい人も実作業に入っていきました。 Wさんも黙々と仕様書を読みふけってます。私とWさんの机は ちょっと離れた位置にあったため、何か話をする訳ではありません でした。私は私で仕事あったし。

 金曜日、初めてWさんと話しました。新しい人の歓迎会をする、と いうことで居酒屋へとてくてく歩いている間、とりとめもなく 普通の話題をしてました。お互いお酒を受け付けない体質である ことが判明し、妙な親近感を覚えました。弱者の連帯。

 その後の居酒屋ではまたもやWさんとは離れた席になってしまい、 ほとんど話しかけることもありませんでした。一次会が終わり、 二次会になだれ込む輩、帰る輩が散り散りになっていきます。

 いつの間にかWさんの姿を見失っていました。

 次の週の月曜日。Wさんが仕事場に姿を見せません。

 「風邪?」「連絡ないよね」「今日用事あったっけ?」「いや、聞いてない」 周りの人間が「?」と思い始めます。「一人暮らしだっけ?」 「まさか・・・ね」不吉な予感が頭をよぎります。メンバーの一人が Wさんの所属会社に連絡を取りました。

 次の日になって理由がわかりました。昨日は一日自社の方に いたのだそうです。とりあえず死んでない、胸をなで下ろす我ら。 おいおい、不謹慎な。

 しかし、その後に続いた報告から、もうWさんはここに来ないという 事は理解できました。Wさん、所属会社に辞表を提出したそうです。 昨日一日、散々慰留されたみたいですが、それを振り切って、という ことだそうです。

 Wさんは「もう来たくない」と言っていたそうです。また聞きの また聞きなので本当かどうかわかりませんが。所属会社のお偉いさん がやってきてひたすら謝っていたそうです。

 そっか。もうちょっと喋ってみたかったな。

 Wさんの座っていた机の上は、がらんと空いていました。


 という訳でストーリー仕立てでお送りしました。やっぱ難しいですね、 こうゆうのは。

 もともと転職・退職が多いこの業界ですから、 たかが一人が止めた位で、という考えは私とかの頭の中にもあります。 この業界いる人間の、一種の共通認識でしょうな。

 でも実際、Wさんの所属会社にとっては厳しいでしょうね。 なんだかんだで「あそこの社員は1週間で辞めやがった。だから あそこの会社は信用できん」という評価になっちゃうのが現実だから。 ひとりのミスはみんなのミス、の連帯責任制。 今後の売上に大きく響くかもしれません。

 でもなぁ、私から見るとWさんの判断ってあながち間違ってないように 思えるんだけどな。むしろ「よくやった!」と誉めるべきなのかもしれません。 私に誉められても嬉しくないでしょうけど。

 今までだったらイヤでもガマンしてガマンして、それでもイヤで 倒れてから辞めるってパターン、少なからずあったでしょ。 辞める前に命絶っちゃうってのもあったし。 それほどまでにひとつの場所にとどめようとする拘束力は強かったし、 それに逆らうのにも後ろめたさあったし。

 でも結局は「自分がそこにいるのが幸せか」てのが一番の判断基準に なるんじゃないのかな?ガマンは決してプラスになるとは言えないような 気がする。逆にプラスに転じるのが奇跡みたいなもんで、マイナスに なっちゃうのがほとんどなのではないでしょうか。

 実はWさんの行動を聞いて、少し羨ましいな、と思ってしまう私。 自分がその立場になった時、果してスパッと切ることができるのか。ここでは こんだけ好き勝手言ってるけど、実際自分の時どうなるかは、その時に ならないとわかりませんね。

 ま、何にせよWさん、今後ともがんばってくださいな、という訳で。


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