コミュニケーションシンドローム


 はー、行く気しねー。

 何って月イチの定例ミーティングに決まってるでしょうが。 最近はとうとう強制化しちまったもんですから、ちょっとやそっとの 言い訳も通りゃしねぇし。これがネタ枯渇モードにでも入ってるのなら、 ネタ拾いのためだけに行くのもやぶさかではないんですけど。

 こーんなことをぶつくさ言いながら自社にとぼとぼと戻りました。

 「えーそれで、今回の連絡事項なんですが。本年度の社員旅行の 詳細を決定するため、この中から一人、幹事として動いて欲しいのですが・・・。」

 あー来た。ついに今年もこのネタがきたか。

 社員旅行。イヤーな言葉ですね。聞いただけでずん、と重圧感がのしかかる っつーか。避けられるものなら避けたい代物ではあります。

 「どなたか立候補なり、推薦なり・・・あります?」

 場を重ーい重ーい沈黙が支配し始めます。1分、2分・・・。

 途端に黙り込む参加メンバー一同。そりゃそーだわな。誰だってそんな めんどくさいことやりたかないに決まってるんだし。つーか俺もやりたかないし。

 まぁ実際には「ここで立候補して幹事にでもなって、正々堂々と 社員旅行潰しにかかるか」つう思惑もあったにはあったのですが、 とてもその程度で潰せそうにはない、というあきらめもありましたからね。

 同様に私もほけーと黙りこくってました。もらったプリントに落書き しながら。

 リーダーさんがたまらず口を開きます。

「まぁ確かにやりたくないって気持ちはわかるよ。めんどくさいんだし。 でもここは誰かがやらなきゃいけないんだし。逆にここはアピールだと 思って手を挙げてもいいんじゃないです?」

 説得にかかりはじめました。呼応するようにようやくメンバーが 重い口を開き始めるんです?

「うーん、それはそうなんですけどねぇ。やはり・・・」 「そもそも旅行自体にあまり魅力感じませんしね・・・」

 まぁ誰しも思うことは一緒なんだね。というかもっとも単純な考え方を するのが自然でしょ。

 むずがる子供をあやすよにリーダーさんが説得を続けます。

「まぁそうゆう気持ちもわからなくはないんですけどね。でもね。 普段バラバラの仕事してると、こうゆう機会でもない限り全員が 集まる機会ってないんですよ。会社としてもこうゆう機会は大切 なことだと思うし。ですから全員参加前提で企画を立てるし、 実行して欲しいんですよ。社員旅行を止めるということも考えていません。」

 あららら。みんな黙り込んじゃった。正面切って組織の立場言われると 途端にトーンダウンしちゃうのね。つーかこれ反論できねぇだろうな。 反論した時点で、たとえそれが正論であっても「組織に刃向かう」ことに なっちゃうし。

 んじゃ、ちょっとこの場を借りてここで反論させてみましょうか。

 いきなり根本の矛盾点掲げていいかい?

「なんで組織にコミュニケーションが必要なの?」

 よく言われる、現に上の例でも出てきている「コミュニケーションを 取れるいい機会」ってヤツ。この辺は今までにもさんざん主張してるんですが、 一日8時間週5日も顔合わせててコミュニケーションがまだ不足してるたぁ どうゆう認識なんだっての。ちょっと前のリーマン倫理だと、これにプラス して夜の酒の付き合い、休日のゴルフの付き合い、その上さらに社員旅行。 365日会社の人とぴったりひっつき。ホモかお前ら。え?ホモに失礼? んじゃ乱交。

 これはまぎれもなくコミュニケーションを常に取っていないと 不安でしょうがない、というコミュニケーション強迫概念でしょう。 特に組織をコントロールする立場からすれば、「監視」という概念が入る以上、 どんなに長く接していても決して拭われることのない、深い深い不信感が 常に存在します。これが根にある以上、手を変え品を変えでがんがん コミュニケーションを強制してきます。

 結局は、それを補完する一手段として社内旅行という制度があるに 過ぎないのよね。なんだかんだいっても社内旅行によって誰がメリットを 受けるかといったら組織であり、組織をコントロールする立場の人間の 方が俄然大きいのよ。

 しかも大抵の場合、そのメリット得る側はこのことを自覚していない。 その上、休日返上だの強制参加だのといった戯言はまかり通る。 根は深いよ。下の人間にしちゃそうゆうことには敏感に 反応しちゃうから、どうしても「ムリヤリ付き合わされる」つう感情 芽生えちゃうわね。

 あーあ。

 でもなぁ。私思うんですけど、組織を維持していく上で、コミュニケーション って必要なんでしょうかね?あ、これだと語弊あるかな?仕事に私的感情は 必要かってこと。社員旅行で重視されるコミュニケーションってのも この私的感情がほとんどを占めるんじゃないですかね?

 たとえばわてら派遣社員の場合、自社に戻るってことはミーティングでも ない限りはそうそうありません。で、断言しますが自社に戻らなくても、 ミーティングなんか行かなくても仕事は問題なく回ります。 逆にミーティングが仕事の邪魔になってる位。

 こっちとしたら会社から必要最低限の情報が入ってくればそれで十分 なんですよ。滞りなく各種手続きができればOK。誇張でもなんでもなく、 メールさえあればあとはいらない。ミーティングすら必要ない。

 そんな状況化にいるとね、やっぱどうしてもこうゆうわざわざ回り道に 回り道を重ねたようなコミュニケーションがうざったくなるんだな。 これは自分の性格でもあるんだろうけど。

 普段顔合わせない派遣でさえこうなんだから、通常の四六時中 顔合わせてるメンツなら、なおさらうざったくなるのが正直な 所なんじゃないか?

 必要な時に必要なことができれば十分、と考えるのがわてら。 いつ必要になるかわからないからいつでもどこでも、と考えるのが あちらさん。

 ・・・・・・あ、そっか。これか。この差か。

 うーん、この差って、今後何十年かかったとしても、埋めることって できるのかね?

 今後も何を言っても社員旅行も無意味なミーティングも続いて いくのでしょう。組織を守ろうとするがために。始めは反抗していた 人間も、組織に溶け込むと共に、反抗心を無くし、組織を維持する 側に回ってしまうのでしょう。

 コミュニケーションに過大な期待を抱き続けて、個人を巻き添えにして。

 やっぱ、ダイナマイトで破壊するしかないのかな?


新着別 分類別
Index