宴の後で。
「終わったねぇ。」
「終わったね。」
「おつかれー」とある土曜日のPM9:30。背広姿の野郎3人が喫茶店の一角を 陣取り、コーヒーをすすってる。 隣の席では女子高生らしき女性がひとりで携帯でメール打ってる。 背中越しのカウンターでは中年のサラリーマン的な人が 寂しげにスポーツ新聞眺めてる。
なんてことない、どこにでもある風景。
「にしても人数多かったね。」
「結婚式の二次会で50人以上とは予想できんかったよな。」
「もう最近は披露宴は親戚だけでこじんまり、あとは全部二次会ってのが 普通になっちゃったからねぇ。」
「ある意味これが正しい姿なんじゃないの?派手な会開けば いいってもんでもないしね。」
「確かに・・・あ、チョコレートケーキ。私、私。」もぐもぐ。
「でもなぁ、俺らが予想してたのよりずっと早かったよな、結婚。」
「俺ももうちょっと後かな、とは思ってた。彼女と付き合ってるのは 知ってたけど、まだ結婚までは行かないんだろうなぁと思ってたからね。」
「やっぱ彼女の方が積極的に結婚に持っていったのかね?」
「うーん。その辺はさすがに2人にしかわかんないけど。でも 押しかけられたつーことはないでしょ。あいつもなんだかんだで願望 あったみたいしだし。」
「結婚かぁ。」
「結婚だねぇ。」もぐもぐもぐ。ごちそうさん。さて。ちょっとつっついてみよっと。
「でもあんたらももう他人事じゃないでしょ。実際。二人とも彼女持ちなんだし。」
「いや、そうでもないよ。」
「あ、そうなの?」
「意識してないといったらさすがに嘘になるけど。まだ現実味はないよ。」
「同じく。まぁ結婚は今じゃくてもいいし、「したいな」つータイミング でできればいいんじゃないかなぁと。」
「ふーん。」
「というかフジハラ、人の事心配してる場合?」
「ひょっとして相変わらず?」やはり突っ返してきたか。
「うん、相変わらず。」
「だろうな。」
「予想通りのリアクションだね。」
「俺ら言ってたもんな、『フジハラの結婚、早いか遅いかのどっちかだ』て。」
「最近は『結婚しない』つー選択肢も増えたね。」
「こらこら。ちったぁ世間並に不安とか危機感とかは持ってないんかい。」
「うーん。」コーヒーを一口。間を空ける。隣の席ではいつの間にか人数が 増えてる。男2人女2人。全員高校生みたいだな。あれやこれやと喋ってる。
「やっぱ考えれば考えるほどないなあ、不安も危機感も。」
「フリー慣れしちゃってない?」
「あ、それあるだろうなぁ。実際ラクだしね。彼女見付けようとかいう 努力すらしてないし。」
「あーあ、自堕落だよ。」
「やっぱり?」
「本人はそー思ってても周りはそうは思わないよー。そのうち来るよー、 お見合いとか。」
「だろうねー。まぁそうなったらそうなったでいいんじゃない?」
「とことん自堕落だな。」
「人間のクズと呼んでくれ。」
「クズー。」
「まんまや。」隣の高校生が席を立つ。カラオケがどうとか喋ってる。 茶髪、ピアス、お化粧もばっちりしてて、んでもってカラオケか。 なんかアンバランスでかわいいな。
あれ?いつの間にかカウンターのおっちゃんの横にも女性が。 なんかにこやかに喋ってるな。スポーツ新聞、脇においてるし。
「でもなぁ。」
「ん?何が?」
「彼女見付けるにせよお見合いにせよ、最大の問題点は残ってるよ。」
「というのも?」
「俺の性格に相手がついていけるか」
「・・・・・だよなぁ。」
「こらこら、そこで素直に納得すんな。二人して首を縦に振るな。」
「だって否定のしようがないもん。」
「今までの言動見てればねぇ、こうなるなってのは誰だって想像できるよ。」
「ぐぐぐ」タバコを口にくわえる。苦し紛れの間取り。
「というか、フジハラってその辺考え過ぎるところあるよね。」
「性格だね。」
「かもなぁ。深読みし過ぎるんだろうなぁ。」
「もっと割り切ってもいいんじゃない?ちったぁ遊び感覚持っても いいんだろうし。」
「そうは思うんだけどね。いざとなるとそこまで余裕持てなくなってるね。 この辺は経験値の差じゃないの?」
「遊んでないもんね。昔も今も。」
「うん、ちょっとだけ後悔してる。」二次会の会場でもやたらタバコすっていたのでノドが痛い。 早々に火を消す。
「まぁここまで来たらしゃあないですわ。なるようになってしまおう。」
「紆余曲折した挙句に結論がそれかい。」
「うん。それ。」
「やっぱあんた相変わらず。」
「すんません。」んじゃ席立ちますか。そろそろここ閉店みたいだし。
カウンターのおっちゃんもいつの間にかいなくなっちゃってるし。 行き先はどこかのバーか、それともホテルか。
まぁいいか他人のことは。求めるも自由、求めないも自由。
そう思うしかないや。
「んじゃお疲れねー」
「おやすみー」
「いいかげん彼女作れー」へいへい。