土曜日午前歯医者にて。
とある土曜日の午前11時半。
私は歯医者さんの待合室で、一冊の本を読んでおりました。
まぁ誰しもそうだと思うんですけど、歯医者さんの待ち時間ってヒマなんですよねぇ。予約した時間通りに行っても、その時間に治療が始まるとは限らない。むしろ30分遅れ、1時間遅れなんてのもザラ。まぁ個人経営の小さい歯医者さんだし、文句言ったところで改善のしようがないしなぁ。
という訳で、この日は待合室にぽん、と置いてあったこの本を何気に読んでたんですよ。
大平光代著「だから、あなたも生きぬいて」(講談社)。
今更ここで書くまでもなく、既に100万部突破した大ベストセラーなので、お読みになった方も多いのではないでしょうか。特に有名人という訳でもないですし、こうゆう自伝がベストセラーになるのって極めて珍しいらしいです。
でも売れた理由、わかるような気がしますな。待ちの1時間の間に一気に読みふけってしまいました。
始めはなんの気なしに、「あ、この本だぁ」程度に読み始めたんですけどね。気が付いたら隣で小学生の餓鬼がいやだいやだと泣き喚いているのさえ気にならない程に集中してました。よく散髪屋で、あんたは髪切りに来たんかマンガ読みに来たんかどっちだ、みたいな人いるじゃないですか。あれと一緒。あんたは歯の治療しに来たんか本読みに来たんかどっちだ、と。
本の内容に関しては敢えて深く触れないようにしようと思いますが、世の中にすごい人ってのはいるもんなんですね。いじめ・自殺未遂から始まって極道入りまでしてる人間がなぜにそこまで立ち直れるんだと。その精神力は一体どっから涌いてくるんだと。5万分の1でいいからそのパワー俺にくれ、つー感じですねぇ。
まぁともかくわすにはこのお方をどうこう取り上げる資格も理由もありません。そこまで私の精神腐ってませんよ。すごいものはすごいと素直に感服致しますです。普段あんまり活字読まれない方も、一度手にとってみてはいかがでしょうか。いろいろと思うことあると思うよん。
さて、普段自分の文章ではめったに取り上げない、いわば書評的なものをなぜにここで取り上げさせてもらったかなんですが。実はこれ読んでいてもういっこ気付いた点がありましてね。こっから大幅に話の流れ変わるよん。ちゃんとついてきてね。
この本、あっけない程に簡単に読み終えることができます。私も比較的本読むのは度早い方だとは思うんですが、それで1時間。これなら本気で早い人なら40分、むっちゃトロい人でも2時間もあれば読了できるんじゃないですかね。それ位短い。
後で聞いたところによると、著者の大平さん、この本を読む対象を同じようにいじめとかに悩む小青年層をターゲットにしたらしいんですね。それで一気に読めるこの分量に押えてるとのこと(実際、文中の漢字にはすべてルビが振ってあります)。それ聞いて「あーなるほどなー」と合点がいったんですけど。
数あるエピソードの中で、どれを詳しく書くか、どれを捨てるか、取捨選択のセンスが抜群です、この人。どれ選ぶか相当苦心されてるとは思うんですが、それでもセンス抜きにしてここまで最小限の文章でインパクト与えることなんてそうそうはできないでしょ。
この本読んで私、やっぱり比べちゃったんですよね。巷に溢れてるWebの文章と。
そりゃあ文章書くにもいろいろな理由があると思います。ただただ人を笑わせられればいい、愚痴言って不満ぶちまけられればそれでいい、みたいなのもリッパな理由。
でも、大抵の場合は「人に何か伝えたいから文章を書く」訳ですわな。私だってそうですもん。本当に書くだけが目的であれば、わざわざWebなんかで他人に晒す必要なんかない訳でしょ。
そう考えた時に、果たして自分の伝えたいものがちゃんとその文章に託されてるか、考えてみると結構心臓に矢刺さるぞ。ざくざくと3本位。
例えば。この本の中で間違いなく一番インパクトのある自殺未遂の箇所。これ、後から考えてみるとこの部分を扱ってるページ数、せいぜい十数ページにしかならないんですよ。
要はたった十数ページだけで、その時に抱いた痛みとか感情とか、全部託しきってる証拠なんだよね。これを私とかがやったらどうなるか。
もう自明です。だらだらだらだら百ページ以上に渡ってひたすら恨みつらみ書くのがオチ。
多分Webの中でもみんなこれをやっちゃってるんだろうなぁ。なんてことを思ったりしてました。当然自戒込みでね。
あ、言っておくけど、みんなくだらねぇ文章書くんじゃねぇって言う意味じゃないから勘違いしないでね。要はいかに「自分の伝えたいことを文章に載せるか」なんでしょうな。
喜怒哀楽を他人に伝えるために、共感を得るために、もしくはひたすら笑いを取るために。いろんな目的がありますわな。それにいかに乗っけていくか、になるんだと思います。まぁだからと言ってそれが一朝一夕でできるという訳でもないんですけど、この文章も含めて、読んでもらうのは見も知らずの他人様な訳ですから。自分の実力がどこにあるのであろうと「伝えるための努力」みたいなのは続けていかなきゃいけないんでしょうな。モノ書く限りは。
・・・なんてことを思いながら、読了後ぼんやりと考えてました。歯医者さんのベンチにて。
いつの間にやら泣き腐ってた餓鬼も姿を消して、待合室は私一人になってます。気が付かなかった。そこまで集中してたんですね。
「フジハラさーん、フジハラさーん」
あ、はーい。結局1時間半待ちでしたか。いつも以上の待ち時間だったな。まぁ収穫はあったし、よしとしましょう。そう思いつつ患者用のイスに座ります。先生がやってきます。
「今日やるところははっきり言って痛いですので。つらいですけど我慢してくださいね。」
はいはいんなもん。大平光代さんの受けた痛みに比べりゃ屁でもな・・・。
きゅいーん。
・・・・・んぎゃ?・・・うう・・・痛い痛い痛いって先生!これシャレならんって!
「ごめんなさーい、もうちょっと我慢してくださーい」
イタイタイタイタァァァァ!!死ぬーーーー!!せっかく人がシリアスに締めようとしてんのになんじゃこの仕打ちは!どんな文章でもオチつけろという天罰なんかこれはーーーー!?
きゅいーん、きゅいーん。
うぎゃーーーーー!!