大雨がやってきた。(中編)


 ガタンゴトン。ガタンゴトン。

 今電車に乗っております。名鉄瀬戸線は時速約20kmを保ちながら、ゆっくりゆっくりと瀬戸方面へと北上しております。

 いやぁ、心臓バクバクでしたね、こんときは。

 普通の状態なら目的の駅まではせいぜい10分弱なんですが、この徐行運転。それに加え、車内アナウンスではひっきりなしに「この先停車する可能性があります。ご了承ください」の声が繰り返されています。

 止まらないでくれぇ。時間はかかっても構わないから、どうか目的地までは止まらないでくれぇ。必死に願っています。

 先ほど携帯電話で喋ってる人の話を盗み聞きしたところによると、どうやらこの電車、発車まで約2時間の待ちぼうけを食らったそうです。うへー。そんなに待ってたのかー。最後の最後で飛び乗れたってのはすっごくラッキーかも。

 とは言えラッキーのままで終わるとは限りません。頼むから止まらないでくれぇ。止まらんとってくれぇ。

 あと2駅・・・・・・・・・・・。

 ・・・・・あと1駅・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・・・・。

 着いたーーーーーー!!!!到着ーーーーーーーーーー!!!

 今これを読んで「チッ、着いたんかよ、どーせなら1駅前で止まって笑わせる位のことはやれよ」と思った方。カンベンしてくださいマジで。この時点でも既に体力ゲージ0近くまで行ってて、立ってるのがやっとだったんです。もう私も27歳です。来年1月にはもう28です。そろそろ体張って笑い取りにいくのも程々にしたいんです。

 ってそうじゃねぇだろ。

 まぁ実際のところ、ホームに降り立ったときには、全身から力抜けるような開放感に浸ったのは事実です。何せこの先はもう徒歩ですから。交通機関がどうだの、渋滞がどうだのに頭を悩ませることはない。それだけでもぱぁっと前明るくなった気分になりましたです。

 とは言え、相変わらず雨は降り続けているのでしょう。勝って兜の緒を締めよ。一旦ホームのベンチに腰を下ろし、雨中歩行の準備を始めます。絶対に濡らしてはならないVisorをたまたま持ってたソフトケースの中に収納、さらにそれをハンカチでぐるぐる巻きにして、鞄の中央部へ格納。落としたら困る財布や定期なども一緒に鞄の中へ。鞄のヒモを短くしてカラダに密着させる形で肩にかける。よし、準備完了いざ鎌倉へ!

 ・・・・・・と意気込んだ姿勢はものの3秒で吹き飛びました。つーかこの光景は当分忘れられないね。

 改札口を出たら、溢れんばかりの人、人、人。

 出口出たところは階段になってるのですが、そこには屋根がありません。痛いと思える程の猛烈な雨が手加減なしで降り注いでいます。そんな階段で、もはや何の役にも立っていない傘を握り締めながら、座り込んで途方に暮れている人々の群れ。完全に目が死んでます。男も女も関係なく、荷物も服もびしょ濡れになりながら、それでも行くことも帰ることもできず、留まり続けている人達。

 一種の極限状態になってましたね。場が凍りついてました。どこにもぶつけることのできない怒りと苦しみが途方に暮れてる人々の上空に漂ってるような気がして、直視できませんでした。

 何かを振り払うような気分で再び暴雨の中へと足を進めます。

 痛い。もはや濡れてイヤだとか気持ち悪いとか、そんな生ぬるい感覚じゃ通用しません。あるのは痛覚のみです。傘がズシリと重量感を持ち始めます。こりゃ傘から手放した瞬間ヤバいな、と直感して、両手で持ち直しました。

 足場も既に靴は常時水中に沈んでる状態です。ちょっと足場が低くなるだけであっという間にスネ(15cm〜20cm)まで埋まってしまいます。水が低いところを探しながら一歩一歩身長に歩を進めます。一番水が上がってた所では、既に水面がヒザ(30cm〜40cm)まで登っていました。歩いてるのは普通の道路なんですよ。でも、道路が川になってしまってるんです。

 車道の方では既に車が何台も放置してあります。オカマ掘られて後ろペシャンコになってる車あり、既にエンジンルームまで水に浸かっちゃってる車ありの故障車大集合状態。水溜まりにはまってしまった車を外に出そうと必死に車を押している男性グループの姿もありました。

 もはやここは日本でもなんでもありません。戦場です。大自然との全面戦争です。打ち勝たねば。これを乗り越えなければ。進むしかありません。もはや戻ることは許されないのです・・・・・・。

 ・・・・・・って硬派なドキュメント気取ってる場合じゃなかったんだよ〜。え〜ん恐かったよ〜!!しくしくしく、あんなの二度とゴメンだよ〜うわ〜ん!!

 いきなり文体を変えんな俺。

 この駅から目的地までの約15分〜20分程とも思える雨中歩行体験は、マイ生涯の中でも確実ベスト3に入る恐怖感でした。ちょっとした地獄見た気分でしたよ。

 だって!普段てくてく歩いてるだけの道路が全部川になってんだよ!止まってる車が濁流に巻き込まれて動いてんだよ!ベンチも消化器もぜーんぶ雨の力だけでぶちまかれて散乱してんだよ!恐いに決まってんだろーがこんな状況で歩いてたら!!

 逆ギレすんな俺。

 もう体力も気力も限界に近づき始めてきたころ、よーやく目的地の家が見え始めて来た時にはもう完全に泣きっ面になってました。もっとも涙なんか暴雨によってコンマ何秒で洗い流されてしまいましたが。つーか顔に当る雨が痛くて痛くて。傘が何の意味も成してないんよ。違う意味でナミダ。

 玄関に知人を呼び出してバスタオルを用意してもらいます。もう靴や靴下はもちろんのこと、Yシャツもネクタイもズボンもパンツも全部ぐしょぐしょ。360度どっから見てもドブネズミのイッチョ上がり!でした。

 「風呂わかしておいたから入ってきなよ」との知人の薦めをありがたく頂戴することに。でもちょっと待て。その前にひとつ確認しなきゃいけないことがある。

 カバンを開けます。うわー中身ぐちょぐちょ。サイフも定期券も乾かさなきゃ。ハンカチも随分水含んでるなぁ、大丈夫か?・・・・・・ソフトケース外して、おっと、その前に手拭いて。

 おし、濡れてない。電源ON・・・・・よし、Visor異常なし!

 って何故風呂に入る前にそれを確認するか私よ。

 つづく。2回じゃ終わらんかったな。


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