一線を越える前に


 今から極端な例を出します。

 モデルは架空の人物です。が、基本的にはWebとかで見た読んだ話とかを基に私なりに再構成させて頂いております。ま、いわゆるネタ拝借ってやつですので、くれぐれもマジに取らないよーに。話半分程度で上等。


 川上次郎さん(当然架空の人物)29歳。地元の中小企業の総務さん、収入も高くはないが生きていけない訳でもない。最近周りから「そろそろ結婚しないの?」とか揶揄されるけど肝心の彼女がなかなかできないからどうにもならんと諦め気味。そんなまぁどこにでもいるよーなごく普通のリーマンさんです。あ「でした」とでも表現した方がいいのかな。

 きっかけは、最近自宅にも入るようになったADSLでした。元々それなりにWebとか掲示板とかも暇つぶしに見てた川上さん。「それなりに安いし定額なのはいいよな」ということで導入。始めは「早いし時間気にしなくていいし、こりゃあ便利だ」と満足していました。

 が。やはり慣れというのは生じてしまうもので「なんかもっと面白いもんないのかなぁ」と若干欲求不満気味だったのもまた事実。

 そんな折でした、ふと見かけたWebの記事からUltima Online(UO)の存在を知ります。「あ、こんなもんがあるのかぁ。コンビニでも買えるし・・・やってみようかな」。と何気にソフトを購入。プレイを開始しました。

 始めは刈りだ訓練だのと単調な作業の繰り返しに「なんでこんなのに夢中になれるんだ?」とも思っていた川上さん。しかし、たまたま街中でのプレイヤー同士でのチャットに遭遇、なんとなく話を合わせていたつもりがいつのまにやら意気投合。一気に視界が広がりました。

 ここからです。川上さんの生活が変化し始めたのは。

 会社が終わり家に帰ってきます。手にはコンビニ弁当と缶ビール。キーボードの横にそれらを広げ、即パソコンの電源をON。身支度もそこそこにUOを起動、いつもの集合場所に。

 いつのまにやらかすっかり顔なじみになった面子とそのままチャットしたり、集団で戦いに行ったりしつつ、開いてる手でコンビニ弁当をぱくぱくぱく。ビールもごくり。味とかはとにかく気になりません。UOしながら食事にビール。一日の楽しみはすっかりこの1点に集約されていくようになりました。これまでのめりこむ趣味も特に持ってなかった川上さんにとっては、この瞬間が至福の時でもありました。

 平日はそのまま眠くなるまでプレイ。金曜日の夜ともなれば、朝までひたすら仲間達との戦いと会話に明け暮れました。朝日が差し込む窓をぼんやりと眺めながら、「こんなおもしろいモンはない!」満足しつつベッドに身を落としていました。

 が。この時、まだ川上さんは気づいてなかったんです。自分の変化に。周りの変化に。

 UO開始して3ヶ月近く経った頃でしょうか。とある月曜日PM1:00。「もうお昼休み終わりですよー」同僚に揺り起こされます。「またゲームですか?」冷やかしの視線を交えながら同僚が尋ねてきます。

 「ふわ〜。うん、今日も朝5時まで。ほとんど寝てないや。」目をこすりながら答える川上さん。「程々にしておいた方がいいですよぉ。ここんところ毎日じゃないですか。」

 この3ヶ月で川上さんの生活リズムは随分と変化し始めてました。週末は夜から朝までひたすらプレイを続け、昼間に爆睡。日曜夜も同じようにずるずると続けてしまうので月曜日はいつもほぼ半轍。平日は平日で仕事終わってからもついついプレイ始めてしまうので結局寝るのは深夜の2時とか3時とか。慢性的な睡眠不足の解消法として、平日お昼休みの1時間は貴重な時間となっていました。

 「うーんでもやっぱり面白くてねぇ。ついついやってしまうんだよ。」確かに始めた頃に比べてキャラクターのレベルアップを重ねた結果、プレイ開始当時では想像もできなかった程できることの幅が広がりました。今ではレアアイテムも随分と所有し、つい最近始めたばかりの初心者に「自分も教えてもらったから」といろいろとアドバイスするまでに成長。もはやUOが第二の生活の場と言ってもいい程に、膨大な時間と手間をかけてきています。それだけに愛着もあるし、何より仲間との他愛の無いバカ話が楽しい。疲れたなぁ、眠いなぁとは思いつつもそれでも日々PCに向かってしまうのです。

 ちょっと体はきついけど、土日の昼にはしっかり寝てるし。まぁ大丈夫だろ。そんな風に考えてました。

 そして。さらに4ヶ月後。

 ネットゲーム熱はさらに高まり、メインのゲームはUOからEver Quest(EQ)へと移行していました。UOの時にもチャットからその存在は知っていましたが、あまりにもの中毒性の高さから「廃人養成ネットゲー」とまで揶揄されるその存在に、さすがに躊躇していた川上さん。しかしやはりどうせやるなら気の知れた仲間と、ということで自らも参加したのでした。

 そしたらもうはまるはまる。UOとはまったくまったく違った世界観、戦略性。そしてリアルタイムの共有感。その新鮮な世界にはまるようになるまでに、時間は全くかかりませんでした。平日・休日を問わず暇さえあれば、睡眠時間さえも惜しんでプレイするようになります。

 そんな中、また場面は変わって金曜日の午後3時。

 「・・・・くん、川上くん。」

 かすかに自分を呼ぶ声が響きます。

 「川上くん!大丈夫かね!?」

 目の前で部長が顔を覗き込んでいます。打ち合わせの最中に、どうやら眠ってしまったようです。ただ、周りには眠るというよりは気を失ったかのように見えてたようで。「顔色が悪いぞ。無理はしないほうがいいんじゃないのか?」怒られるどころか、心配されてるみたいです。ラッキー、とは思いつつも後悔の念にもかられる川上さん。

 今週ちょっと調子に乗ってしまい、夜な夜なチャットと戦闘に興じていたためほとんど寝ていません。今までは眠気が我慢できなければ参加メンバーに詫びを入れてパソコンの電源を切り、眠りについていたのですが、昨日は違いました。深夜3時位に朦朧とし始めて、気が付いたら朝。椅子に座りながら眠ってしまっていたようで。

 打ち合わせの後も、「無理せずに早退した方がいいですよ。顔真っ青ですよ。」と同僚も心配して度々覗き込んできます。「大丈夫、この仕事終わらせたらすぐ帰って休むから。」となだめてなんとか仕事を終わらせました。

 帰り道。もはやすっかり習慣と化したコンビニ弁当と缶ビールを手に、てくてくと歩いてました。仕事してる間はただひたすら眠い疲れたとばかり思っていても、いざ終わりとなるとつい気分もラクになってくるものです。となるとついつい頭に浮かんでくるのは見慣れたEQの画面。明日はまたあそこでクエストする予定だったな。何人位参加するのかな、そろそろあのアイテムも欲しいな。あ、でもあそこ行く前にちょっと別の場所で慣らしてから集合して・・・

 そんなことを思いながら、アパートのドアまで辿り着きました。

 記憶はここで途切れます。

 

 

 

 目覚めたとき、ぼんやりと見えたのは見慣れたアパートの天井ではなく、無機質な真っ白の蛍光灯の光でした。そして田舎にいるはずの両親の顔。

 「このバカモンが!!!」

 親に泣きながら叱咤されました。

 典型的な過労、とのことらしいです。が、倒れた際に頭を打ってしまったのかそのまま本当に気絶してしまったらしく、そのまま救急病院まで運ばれたと。たまたま別件でアパートの大家さんが通りがかった時にドアが開いていなければ、そこから人の足が見えてなければ、そのまま処置が遅れていれば、人知れず命を落としていたかもしれないとのことでした。

 親は病院から連絡を受けたとき、「過労?仕事のし過ぎ?」と思ったそうです。が、どうもそうじゃないらしい。連絡がてら会社の人に尋ねてみたところ、仕事ではなくゲームが原因らしい。最近仕事には出てきているもののミスも多いし、体調すぐれないことも多いからおかしいとは思ってたと。それで会社の人に頼んでPCを見てもらい、ゲームによる過労だと確信したと。

 そう説明を受けたとき、横っ面引っ叩かれるようなショックを覚えたそうです。

 結局、頭のケガと、過労の蓄積のこともあり、1週間近く入院することになりました。横たわるベッドの上でようやく落ち着きはじめた頃、まず思い浮かんだのは放置されたままになっているEQのキャラクターの事。

 が、それを振り払って否定しました。自分がこうなったのはゲームのせい・・・いや違う。ネットゲーに溺れてしまった自分のせいじゃないかと。結果としてそれで親にも会社にも迷惑かけて。入院中、自問自答と自責を繰り返したみたいです。

 その後退院した後も、川上さんはネットゲームに触れていません。CD-ROMはハンマーで叩き割り、PC自体も「あげるからメールでも覚えなよ」と親にあげてしまいました。もうちょっと落ち着くまではPC無しの余暇を過ごす予定だそうです。

 先日、大学時代の同級生同士で久々に飲み会があり参加してきたそうです。今も睡眠リズム改善中のため、お酒は全く飲まなかったそうですが。

 「説明できないんだけどなんか懐かしくて、嬉しかった」

 そんな感想を述べてました。しみじみと。


 という訳で。長くなってしまったな。

 ネットゲーム依存症(多分そんな言葉はまだ認知されてないとは思うが)の一例的に取り上げさせて頂きました。何分私自身はUOもEQもまったくの未経験のため、細かい描写とかはどうしても食い違ったりしてると思います。その点はどうぞご容赦を。

 ネットゲーが面白すぎるばっかりに、他のすべてを投げ捨ててしまい、結果として会社や学校辞めちゃったり、離婚しちゃったり、親兄弟に見捨てられたり、はたまた体壊してしまったり、といった現象が起こっているよーです。

 ちょいと前に言われたインターネット依存症、といえばわかりやすいかもしれないけど、やっぱりそれとはちょっと違うよな。私自身ある意味自他共に認めるインターネット依存症だからこう言えるのかもしれんけど。

 私自身ゲームは好きだし(下手だけど)、ネットゲーも今までには無いすっげぇエンターテイメントだとは思う。それに私、「イヤだったらとりあえずは逃げろ」を信条として生きてる人間だし、はまる・依存する気持ちってのもわからんではない。

 けどさ。

 おめぇそれはやりすぎだろ?と。300m逃げ切れば十分安全圏に逃げられるのに、月の裏側まで逃げてどーすんだよおい。そんな感情を覚えるんですな。

 これよんで「なーに大げさなこと言ってんだよ」てなことを思う人もいるかもしんない。でも、これは種類を問わず依存症に言えることだけど。本人は依存症とは思わないんだよな、得てして。のめりこめばのめりこむだけ視野は狭くなるんだ。

 だからあえて言っとく。

 ほどほどにしとけ。

 以上!あとどーするかは各々に任せる!解散っ。


P.S.
校正終えてさぁアップするかと思ったところで身内からメールが。 おぉ。おめっとさん。しかしタイミング良過ぎますぜ。 こうならんように気ぃ付けとけ(笑)。これが私なりのお祝い。


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