始末書の書き方


 はぁぁやれやれ。今日もわてらにとっては全く意味の無い会議だったよなぁ。やれ業務別ミーティングだやれグループミーティングだやれ教育ミーティングだ、名前だけすげかえて毎回毎回さして内容も変わらない形だけの会議繰り返すのもたいがいにせぇやほんまに。ったくこうゆうことのひとつひとつが結局非効率の根源に積み重なっていくのわかんねぇのかねぇまったく・・・。

 え?そんだけ不満あるんだったら上司に向かって言え?言ってんですけど(笑)。無論オブラートには包んでるけどねぇ。なんつーかここまで来ちゃうとわざわざ時間削って議論するのもバカバカしくなっちゃって。皆がこう思うことによって「周りはイエスマンばかり」企業崩壊一直線の道を突き進むんだけどねぇ・・・まぁいいや知ったこっちゃねぇ。さて、とっとと帰りましょうかねぇ明日は休みだからちょっとだけ夜更かしして、スカパーのW杯再放送でも見て・・・。

「あ、こんちわぁお疲れ様です。」

 ん?・・・あれ?児島さん(仮名:男性:未婚:私とほぼ同期)じゃないっすかえ。どうしたのこんな日に?今日はこのミーティングは関係ないよね?

「うん、今日はミーティングは関係なし。今日はこれ目的。」

 と一枚の紙切れを見せてくれました。ん?どれどれ・・・。

 え?始末書?何やらかしたんよ?

「結果から言えば無断欠勤。まぁ仕方なかったんだけどねぇ。とりあえず決まりなんで書いてくれってことで。」

 ふーん。ここでは詳しい理由は書きませんが、どう考えても当の本人の説明聞く分には始末書出すには当たらないと思うんですよね。これだからなこの石頭は。まずは書類を出せ手続きを取れ規則を守れ言い訳ぬかすなとっととやれ。うるせえ馬鹿!これじゃあ根拠の無い先例に縛られて個人も企業も硬直化していく典型例にしか過ぎないじゃん。そんな紙切れ一枚で責任逃れられるんだったら喜んで何百枚でも書いてやる。論点違う。

 しかしうちの社での始末書の書き方ってのは初めて見たな。常駐先には書いたことあるけど。あかんやん。

 ちょっと見せて。どれどれ。


一。私は平成14年6月7日、***(内容自粛)***のため、無断欠勤をいたしました。

一。私事による緊急事態とは言え、その結果日常業務に支障を来し、会社及び取引先に多大なる御迷惑をおかけいたしましたことを深くお詫び申し上げます。

一。今後は二度とこのような失態を繰り返さず、より一層業務に精進することをお誓いして、ここに始末書を提出致します。


 こんな感じ。ごめんね。頭スポンジだから半分も再現できてねーや。見本のコピー貰ってくりゃよかった。

 実際にはだらだらだらだらジジイのションベンみたく読みづらくて書きづらい意味のなさそーな謝罪文句がこの3倍位の文章で羅列されておりましたです。あれだね、お役人が不祥事出したときに棒読みで朗読するお詫び文と同レベル。うげぇそこまでしなきゃなんないのぉ?げんなり。

 あー俺もそのウチこれ書くことになるんだろうなぁ。もっとも始末書書く前に退職願書くことになる確率の方が高いと思うんだが。げほんげほん。えーなんでもないです。

 それはそうと。実際に私がマジメに始末書書くとなればどんな文体になるんだろう。練習兼ねてシミュレーションしてみっか。ええと例えば。前回みたく大下痢ビッグウェーブで遅刻3回に到達したとしたら。こんな感じか。


一。私は平成14年6月11日、下痢による腹痛のため鶴舞駅構内のトイレに2時間籠もり切りになったことで遅刻となり、社の定める半年に3回の遅刻に達し多大なる心配と御迷惑をおかけしたことを深くお詫び致します。

一。自己の体調が原因とはいえ、早く清掃作業に入りたいお掃除おばちゃんの作業を妨害し、結果として鶴舞駅のスムーズな操業を乱してしまった事、そして報告の際に取引先の上司である福永殿を20分笑わせ続けた挙げ句に呼吸困難で病院送りにしてしまった事は誠に申し訳なく思います。今後は事故を未然に防ぐためにも、毎朝のど飴代わりに正露丸を口に含みながら電車に乗る等の努力を厭わない所存でございます。

一。つーかだな。誰がてめーらに対して御免なんて思うかよバーカ。頭ウジ湧いてんじゃねーのこんな紙切れ一枚であーだこーだ言いやがってよこのうすらとんかちが!てめーらの頭の中のおがくず全部まとめて洗い流してやっからよ、その馬鹿面まとめてこっち並べやがれこのすっとこどっこい!

一。ん?ちょっと言葉が古い?そりゃ悪かったごめんねーわっはっは。


 減給がどうだ解雇がどうだ言う以前に、人間としてダメじゃないのかそれは。俺が上司の立場だったらまず殴るぞ。だったら書くな俺。

 いかん、そうゆうんじゃないんだ。これは例が悪かった。大体下痢から謝罪に話を向かわせること自体、笑いに走れと言ってるよーなもんじゃないかっ。書き直し。

 いかん、マジメに考えよう。将来私がやってしまいそうなヘマ・・・。


一。私は平成23年7月29日、名古屋市中区の路上で見ず知らずの女性に対して強姦事件を起こし、通報・逮捕・収監されました。そればかりか以前から複数の十余名に対しても同様の事件を起こし常習犯と化しておりましたことに対し、関係者諸氏に多大なる御迷惑をおかけしたことを深くお詫び申し上げます。

一。常日頃から「モテない」だの「人間のクズ」だの「女性の敵」だの「あいつホモなんじゃないの」だの「いやロリコンなんだよ」だの言われ無き罵倒を浴びせられ続けた鬱憤が溜まっての所業とは言え、罪も無きか弱い女性に対して一方的な残虐に走ってしまったことは弁明のしようもなく後悔の念に耐えません。

一。今後は誠心誠意お勤めに尽くしますと共に、社会復帰を果たせました折りには責任ある一社会人として、世間様に顔向けできますよう精進することをお誓いして、ここに始末書を提出致します。

追伸。今度は痴漢位で我慢します。


 ぶるぶるぶるぶる(激しく首を横に振る仕草*200回)。

 やんねーよ!!そんな度胸もねーよ!!こらソコ、疑いの眼で私を見るな!

 それ以前に体張って笑い取りに行くのヤメロ私よ。ひくわ。

 つーかやめだやめ。シミュレーションなんて時間の無駄。あかんよ私にこんなことさせちゃ。私ゃハガキ職人上がりの雑文書きよ。文章の種類を問わず中に小ネタ挟むクセが頭のてっぺんからつま先まで染みついてんだよ。もう彫りモンと一緒で一生取れないんだよ。だからおとなしく自分が書く番になったら、会社の出す見本に従って一言一句書き写しましょうよ。所詮紙切れ一枚出せば責任あやふやになっちゃううすっぺらい管理社会なんだからさぁ。

 いやちょっと待て。じゃあ最後にこれ。これだけでいいからやらせてくれ。雑文書きとしての全プライドを賭けて。

なんかヘマしました。始末書出せと言われました。会社が手渡した文例と万年筆を頑なに拒みましょう。ええい女子供じゃあるめぇしこんなちまちましたもん使ってられっかぁ!漢だったら筆じゃあ!墨じゃあ!半紙持ってこい!!

 全身全霊を太筆に託し、心の赴くまま一気に書き上げます。おりゃあどうじゃあ!これが俺の生き様じゃあ!!

 

 「すまん。」

 

 ・・・・・・え?

 社内で墨汁振り回した件に関して始末書出せ?


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