歪み切ったこの世界


 もう駄目か。俺の悪運もここまでか。

 マイナス20度の強風が容赦なく肌を切り裂いてゆく。左足には重度の刺し傷が。歩を進めるたび、血痕が男の行き場を示す。追っ手もおそらくこれを頼りにしてくるだろう。追いつかれた後再び蜂の巣にされるのも時間の問題だ。

 逃走を続ける体力も気力も完全に喪失しつつあるのが現実だ。手も足も、もはや感覚を失い、這いつくばって地を這うのが精一杯。目の前の風景がすべて歪んで見える。雪と氷が一面を支配するはずのこの世界で、なぜか極彩色の曲線絵が男の目の前で繰り広げられている。

 くっ、ついに幻覚まで見えちまったか。

 どうする。おそらく追っ手が追いつくまでの時間は長くて5分。捕まって再びあの拷問に耐えられるとは到底思えない。かといって今回の任務を知られる訳にはいかない。そんなことをすればクーデターの手助けになるだけだ・・・。

 「すまない。ジョディー。愛してる。」

 わずかながら小瓶に残っていたバーボンを一気に飲み干す。幻覚は更に色彩を増し、男の精神そのものを混沌の渦に飲み込んでいく。懐から取り出したリボルバーを自らの眉間に突きつけ。

 残り一発となった銃弾を己の脳髄に叩き込んだ・・・。

 ・・・・・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・・。

 「・・・・・・・ハラさーん。フジハラさーん。」

 ・・・ほへ?・・・なんでここに?ジョディーは?ジョディーは何処?

 「何を寝ぼけてるんですか。それよりも大丈夫です?顔真っ青ですよ。寝てるというよりは死んでるんじゃないかと思った位ですもん。もう今日は早退したらどーです?」

 あぁそうゆうことかぁ。半分気絶するように寝てしまってたんだなぁ。意識ほとんどなかった。それじゃあすいません、お言葉に甘えさせてもらって帰らせて頂きますわぁ。んじゃすいませーん失礼しますー。

 「おつかれー。お大事にー。」

 失礼しまーす。

 という訳で前フリコントでした。コントかい。ここまで書くのに約30分。ハードボイルド調気取ってみたはいいけど、やっぱ文体変えちゃうと途端に書けなくなるなぁなかなか雰囲気出ませんってどーでもいいんだよそんなことは>俺。

 いや、それにしても参りましたわ今回は。いや、今回も、と言った方が正しいか。

 今週ものの見事にブッ倒れまして、会社早退欠勤して床に伏せっておりましたです。これまでも様々な病歴を基に身を削る思いでネタを作り出しておりましたが、今回ので病歴キャリアアップの階段をまたひとつ登ってしまいましたよ。イヤなステップアップだな。

 今回病歴に加えられることになったのは至ってシンプル。

 「目眩」。

 事の発端は先週の木曜日。おしごと終わった帰り道、駅へとてくてく歩いてたら突然立ちくらみしたんですよ。くらぁぁ、て感じで。そん時は「あぁヤベェ、俺疲れてるなぁ」てな感じで特に気にも留めてなかったんですな。こうゆうことはこれまでにも何度かありましたし。

 でまぁその週のおしごとはなんとか凌ぎまして週末しこたま寝て。まぁなんとかなるかなぁというところまでは回復させた、と思っていたのですが。日曜の夜になってまた再び軽い立ちくらみと偏頭痛。

 そっからはもう下り坂ゴロゴロでしたよ。朝、昼、夕方、と時間の経過と共に目眩はひどくなる一方。「あ、いかん。こいつぁただごとじゃねぇや」と認識できたときには既に時遅し。頭ガンガン目クラクラ。目の前に見えるは別世界。ディスプレイの文字が読めない。まっすぐ歩けない。座っていることすらままならない。最後とうとう職場で気絶・・・という顛末でしたな。

 しかしまぁ、私ここまでの目眩ってのは生まれて初めての体験でしたね(元々貧血とかは無縁でしたし。血圧高い&血ぃ濃いなんで)。ちょっとどころかかなり怖かったです。だってほんとに視界が歪むんだもん。よくCGとかで画像ぐにゃーって曲げて曲げて表現するやつってあるじゃないですか。あれそのまんま。目開いてても飛び込んでるのは普段見慣れた景色とはまったくの別世界。ひどいときには冒頭のコントじゃないですけど、ぼやけた映像の中で白とか黄色とか緑とか、光線みたいなもんがバシバシを目の前暴れまわってましたし。一人天然SFX!近未来コンセプト映像を脳内で実現!

 嬉しくねぇよそれ。

 まぁそんなこんなありましてお医者さん行きまして。身内とかや職場のひとには「それヤバい!早く医者行け!脳溢血の症状!くも膜下出血の可能性も!」と脅されまして私もビビってましたので、平衡感覚の検査受けてCTスキャン撮って。

 「脳は大丈夫ですね、怪しいところは見当たらないです。過労やストレスが三半規管に影響して今回の症状に至ったんでしょう。目眩止めと頭痛薬出しておきますので安静にしておいてください」

 つー結果を頂きました。まぁ大事には至らずホッとしているところ。ただどうやら今回だけに限らず、体調崩すと同時に目眩も起こす、ということは今後も十分に考えられるので、何かあったらすぐ医師にかかるように、とも注意されましたです。つーことはまた注意せなならんことがいっこ増えたってことだなぁやっぱトシなのかねぇげほげほげほ。

 まぁそんな感じで寝る以外にできることがない、そんな数日間を過ごしておりましたです。ご心配おかけしてスマヌ>身内及び職場の方一同。まぁ体のことに関しては一朝一夕でどうにかなるというもんでもないですからねぇ。気ぃ付けながら倒れないようにするだけで。

 それよりも今回、ちょっといつも以上に思ったことがありまして。こっからまた話の流れ変わりますが。

 これまでの心房ブロック、腰痛、睡眠障害。んで今回の目眩。普通ならデメリット以外の何者でもないこれらの病原ですが。

 こと今の職場で今の職業やってる限りにおいては、これらによるメリットってのが実は存在してるんですよね。ある程度以上の無理をしてしまうと、これらのいずれかが発動して、仕事するのが物理的に不可能になりますから。

 「徹夜?残業?休出?だめだめ却下。そんなんやったら次の日から3日動けなくなりますから」これは脅しじゃなくて事実。え?そんなん軟弱なだけ?知ったことかボケー。好きでこんな体になったんじゃねー。

 実際今関わってるプロジェクトも残念ながら「休出残業お構いなし」的な方針で進んでしまってるんですが、こと私に関しては(今回の件も含めて)「倒れる位だったら残業とかもしなくていいからできる範囲内でできることをやってくれ」つー空気になりつつあります。少なくとも体調が悪い=限界ギリ、倒れた=限界超えた、という極めて明確な基準をもって仕事量コントロールできると。これは意外とありがたいぞ。

 で、逆を考えてみると、普段体が丈夫な人ってなかなかこの体の臨界点を体験することができないっつーことがあるんですよね。休みなかろうが毎日終電だろうがなんとかかんとかこなせちゃう。むしろこうゆう人の方が今の労働環境とかと照らし合わせてみると危険なよーな気がしてきますよ。だって企業側から見れば「無理が利くベンリな捨て駒」ですし。体験的にもこうゆう人には周りからがんがん仕事押し付けられてるよーな印象ありますし。そんな状態ですと体にちょっと異変が起こったりしても「なんてこたねーや」でやり過ごしてしまう。で気づいた時には手遅れですわ。良くて長期入院、悪けりゃそのままあの世に一直線。

 それに何も臨界点てのは身体的なものだけとは限らないよな。精神的臨界点てのもある。定時になっても誰も帰らないオフィス眺めてると、一度こいつら全員地引網でとっつかまえて強制的に精神科の集団検診受けさせてみたいなぁ。何人が総合失調症で、何人が自律神経イカれてるんかなぁ。こんなこと想像しますもん。下手したら半分超えるんじゃねーだろーか。

 アブない?私の想像って。でも割と当たってるよーな気がするぞ。それ位、メンタルケアに対する配慮は足りないよーな気がしますもん。つーか無い、と断言してもいい。「体動いて仕事できてるんだからだいじょーぶだよ」と余りにも安易に考えてるんじゃねーのかい?無論職場側からこうゆうケアができるのが理想なんだろうけど、現状では各個人での自衛すらまったくできてない、てのが正直なところじゃないでしょーかね?そうでなきゃビルの屋上からファイナルスカイダイビングなんてことそうそう起こるかねぇ?

どうよ?どうなのよ?常日頃残業に明け暮れてる社会人さん?特にPG/SEさんよ。自分は無理してないって言い切れる自信ある?

 ・・・・・なんか随分と脱線しましたな。いやねぇ、目眩起こってると目そのものが使い物にならないから、パソコンもテレビも本も見られないできるのは寝っ転がりながらいろいろ考えるだけ、てなことになっちゃうんですわーな。わずか数日ですけど、考えましたよいろいろと。将来のことからおバカなことまで。ちょっとここでは書けない破廉恥な・・・それはどーでもいいねん。

 まぁ私的にはきっかけこそ目眩だけど結果的に数日休めましたし、いいリフレッシュにはなったかなぁ、と考えてますけどね。思えば祝日強制返上の影響で夏休み以降、平日はすべて出勤でしたし。土日2日だけではもはや回復できない位の疲労・ストレスが蓄積されてたってことなんだろーな、と。

 そうゆう意味では他人様煽っておいてから言うのもなんだけど。私自身もまだ自分の体コントロールできてなかった、ということなんでしょう。いけません。もっと人間のクズにならなきゃこの歪み切った世界、まともに乗り越えられません。

 歪むのは視界だけでジューブンです・・・いや、それもいらん。


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