迷子のプログラマ


「それでは次の方どうぞー。中にお入りくださいー。」

 あ、私の番だ。んじゃ行きますか、よいっしょっと。

 がらららら。失礼します。がらららら。よろしくお願いしまーす。

「こんにちは、今回はどうされました?」

 はぁ。実はですね話せば長くなるので簡潔に言いますが。

 やる気が起こりません。

「簡潔過ぎます。もう少し具体的に」

 んーとですね。どうも仕事に身が入らないというか。以前でしたらコード書いてて「うわぁ楽しいぃ」とか、ソフト完成させて「やったぁ」てな満足感とかもあったんですが。再就職前後からですかねぇ・・・。もぉ何をやってもさっぱりで。

「うーん、そいつはいけませんねぇ。それじゃあすぐに処置しましょうか。奥の部屋に入って。そしたら天井からロープの輪ぶら下げてますから、そこに首かけてぎゅーっと締め付けてみてください。」

 はーいわかりましたー。ロープ首かけてぇ。よっこいせっと。

 ぎゅー。ぎゅー。ぎゅー。

 くっ、苦しい苦しい!死ぬ死ぬ!ギブギブギブ!

「だめですよぉやるなら一気にやらなくちゃ。」

 そーゆー問題じゃなくって!つーかいきなり首吊り薦めるカウンセラーがどこの世界にいるんだよ!?

「だって私カウンセラーでもなんでもないし。貴方が勝手にメイキングした架空人物ですよ私は?」

 いきなりバラすな!元も子も無い!

 ってそーゆーことを言いたいんじゃなくって。今回はコントしに来たんじゃ無いんだから!病める社会人とそれを診るカウンセラーという構図から、いかにして「やる気」という要因を浮き彫りにするか、ってのが大きなテーマなんだから!真面目にやってよね!

「狙ってたものと違う代物になることが多いけどね君の場合」

 そこだけ冷静にツッコむな!当たってるだけにムカつく!

 まったくもぉ・・・

 

 

 (一服中。しばしお待ちください)

 

 

 ・・・・・・んじゃ仕切り直し。Take2行きますよー。

「これだけ脱線すると戻すのも大変なんだけど」

 いいよ、いきなり本題入って。どうせ編集するし。

「はいはい。えっとさて。それで先程『やる気が無い』という表現をしていましたけど。」

 以前だったらコード考えてる時ってそれ以外のことは眼中にないというか。それこそ没頭できたはずなんですけどね。今もう全然ダメで。作業に集中できなくて。結局Web巡回や2chに逃げてしまう状態。

「達成感、という意味では・・・?」

 ・・・・・感じませんねぇ。まぁこれは元々という説もありますけど。派遣プログラマの場合ですと、プロジェクトの最初から最後まで立ち会って・・・というケースは意外と少ないんで。最終的な結果を知らないまま次のプロジェクトへ。そんな感じ。ですので成果物を「直接お客さんに渡す」という機会も実はほとんど無かったです。

「なるほど。でも実際のおしごとはひとつのスタート/エンドだけでは終わらないじゃないですか。細かい作業のスタート/エンドの積み重ねが結果としてゴールに繋がっていくと。一日一日が満足できていれば、そうは考えなくてもいいですよね?この辺に関してはどうでしょう?」

 ・・・・・うーん。確かに「今日は進んだなぁ」という日も無くはないです。そんな日はよく眠れるし。でも確率的には低いですね。月に1日あればいい方。「なーにやってたんだろ」と妙に疲れてPCの電源落とす日がほとんど。

「ふむ・・・。じゃあちょっと業務内容からは離れて。純粋な技術面というか、新しい言語やツールの取得とか、これまでの技術の掘り起こしとか。その辺ではどうでしょう?ちょっと前にもEclipseいじったりしてたじゃないですか。その時にはそれなりに楽しんでるようにも見えましたけど。」

 確かにそん時は。でも今ちょっと詰まっちゃってますね。

「ほう。それは何故?」

 使おうと思ってたプロジェが座礁しちゃったんですよ。その途端、なんか登ってたハシゴが崩れ落ちるような気分がしちゃいまして。それ以降さっぱり。

「EclipseはPerl環境にも使えますよね?Javaにせよ次回は使うことになるかもしれないという状況は変わってない。明日のことを考えれば決して無駄ではない」

 ・・・・・・うーん。

「どうでしょう?」

 ・・・・・・なんて言ったらいいんでしょうね。その明日が見えてこないとでも言うか。

 おそらく底にある問題点としてふたつある。

「ひとつめは?」

 今の会社なりプロジェクトから、自分に何が求められてるのかどうも見えてこない、ということですか。例えばこちらがJava必死に勉強したところで、使う機会が無ければそれこそ勉強する意味自体が無いと。脳味噌のしわは増えるかもしれないけど、それが仕事に繋がらない、そんな不可解さ。

「はい。じゃあもうひとつは?」

 単純に能力の問題。つーか元々自分、そんなに技術があるなんて思ってませんから。せいぜい中の中から中の下。この辺で言えば去年のデスマ以降、ずーっと自信喪失の状態が続いてますし。

 ぶっちゃけた話、Java触ってるときにも、ツール類の数、覚えなきゃいけない「お作法」が多過ぎて発狂寸前まで陥りましたし。同じことがPerlとかにも言えて。数多あるモジュールなんていちいち使い方覚えてられねー!

 「限界を感じてる」なんて言ったら怒られるかもしれないけど。今転がってるいろんなツール/言語を「モノにできる」という感触が、正直なところ触ってても全く無いです。

「ふむ。だいたいわかりました。ありがとうございます。」

 ・・・しかしお遊びのつもりで書き始めたのに。ここまでディープになるとは自分でも思わなかったな。

「今本番中です。それ言いっこなし」

 あ、失礼。・・・・・・自分でも「袋小路に入ってるなぁ」というのは感じるところなんですけどね。でもどうにも突破口が見えてこない。

「突破口ですか・・・お仕事とかは抜きで構いません。今こんなソフト作ってみたいとかこんなことやってみたいなぁとか。そうゆうのってありますか?」

 全然。もうさっぱり。Java使って何かしたいとか、XP(eXtreme Programming)使って何かしたいとか、そうゆうのはあるんですけど。その『何か』は頭逆さまにしても全く出てきませんね。

 逆を言えば仕事でアレやれコレやれってのがあったから持ちこたえられてたのかもしれないです。今はもう惰性だけで言われたことをかろうじてできている、という感じなのかも。

「燃え尽きた、Burn Outした、という可能性はあると思います?」

 無いと思いますけどね。もし本当に燃え尽きたのであれば、再就職自体してないはずですし。どっかでくすぶってるんだと思います。ただうちわで扇いでも扇いでも一向に火種が復活してくれない。そんな感じ。

「なるほどね。なんか今の話を聞いていると、今の貴方に必要なのは『燃料』というか、何か燃やす対象のような気もしますけど。実際のところ自分でも感じています?」

 燃料・・・ねぇ。火種はある。燃やす必要のあるそのものが必要なのかもなぁ・・・。 ふーむ。

「それでちょっと立ち返りますけど。貴方には今この時点で2つの選択肢があるような気がしてきません?」

 というのは?

「ひとつは先程ご自身で挙げました問題点、これを克服する方向にパワーを持っていく。『何が求められてるのかわからない』ってのはもっとプロジェ内のコミュニケーションを密にできるよう画策してみるとか。『能力不足』にしたって、まだやり方が残ってると思うんです。えっとなんでしたっけね?いつも貴方が言ってるプログラマの三大美徳・・・?」

 不精。短気。傲慢。・・・・・・あぁ。

「というのが一つ。もうひとつは、今まで目もくれてなかったけど、やってみる価値がありそうな分野。そこに飛び込んでみる。そんなのがありそうな気がしてきたんですけど・・・。何か思いつくのあります・・・?」

 ・・・・・・ある。

 あー言いたくないんだけどなぁこれぇ・・・・。

 仕方無いや言ってしまえ。管理。あと金勘定。

「実は興味はあるんじゃないです?」

 ・・・あーい確かに逃げ回ってましたー。でもそろそろ限界でーす。逃げ切れないような気がしてきましたー。

「あんだけ見えない言ってた突破口、見えてきたじゃないですか。」

 んー・・・・。んでも。ちょっと待って疑問はまだ残る。

 確かにこうゆう問題点あるし、筋道あるよというのはわかった。でもさ。一度にこんだけ全部できる訳が無いじゃないですか?あれもこれもってやってたら結局潰れますぜ?

「全部できます?」

 無理無理。

「じゃあひとつずつなら?」

 あ。

「何から片付ければいいかの順位付けはおそらくもう頭の中にでき始めてると思います。じゃああとはそれに従うだけですね」

 そっかぁ・・・・。まぁやってみるしかねぇしなぁ。どうせこのままくすぶっててもそれこそ燃え尽きるのを待つだけだし。

 んじゃまぁだらだらと進めてみることにしますかね。あーどうもありがとうございましたー。まさかここまで突き詰めることになるとは思わなかったっす。

「はいはい。また詰まったら来てください」

 あーいんではー。失礼しまーす。

 

 

 

 はいカット。おっつかれっ。

 長々と失礼致しました。途中で読むのやめちゃった人もいるかもしれねーな。まぁいいけど(おい)。

 で。なんでこんなことを延々と続けてみたのかという訳でそのタネ明かしをしようと思いまして。

 実は今回のこの脳内やりとり、以下の参考文献からいくつか盗ませてもらってます。

「人を育て、動かし、戦力にする実戦コーチング・マニュアル―すぐに使える260フレーズ!」 (伊東明著/ダイヤモンド社/1400円+税)

 そうです。コーチングです。カウンセラーがコーチで、クライアントが私。こう言われたらこう返すんじゃないかな、というのをそれぞれ想定しながらキーボード叩いてみたらこうなりました。まぁあくまで独自の解釈ですし、脚色も入ってますので、本来のコーチングとは違ったやりとりになってるかもしれないんですけど。おそらくこれ専門家が見たら山のように赤が入るんだろうなぁ。まぁそんなことは気にしませんが。をい。

 従来のカウンセリングと違って「答えをクライアントに探させる」というのが大きなポイントになると思うんですが読んでみて如何でしょうか?自分の中では一通り想定文章書いてみて、「なんとなくだけど使えそうかな?」みたいな感触も抱き始めてます。

 というのも、俗に言う相談事って、大半は(すべてそうではないですけど)、実は既に本人の頭の中にあって、要は頭の整理も兼ねて誰かにぶちまけてみたいだけ、というのも多いような気がするんですよね、経験上。となれば、「本人が持っている答えに到達させるためのプロセス」というコーチングの考え方って、随分と理にかなってるような気もするんですな。

 また「人の話を聞く」というのは「モモ」にも通じるところがあるかな、とも思ってて。その辺もあって違和感なく入り込めたのかもしれないです。コーチングしたいってのはある意味「モモになりたい」ってことを表してるのかも。

 今回はどうしても自分の知ってる分野(=プログラマ)の話にしてしまったので、多少専門用語とかも入ってはしまいましたが、業種職種を問わず利用することはできそうな気がしますし。

 どうでしょう?手を出してみるのも一興かも知れませんぞ?ただしあくまで「過信しない範囲内で」とは言っておきますけどね。「よーし俺はコーチングの専門家になるぞ!アメリカ言って資格取るぞ!」てのはなんか違う気がしますし。ってこう書くとこの本の著者に怒られるか(笑)。

 でもある意味その程度でもいいのかな、とは思うけどな。「コーチングと悟られないコーチング」とでも言ったところですか。それでも少なくとも今までみたく全部精神論で片付けられるよか1000倍マシなんで。

 という訳で以上、独善的なコーチング宣伝文でございました。まぁ実際に使う使わないはまた別の話になると思いますしね。最終的判断はオメーで勝手にしやがれ。をい。

「そうですね。ところで。今まで私と話してきた内容に関しましてはどうです?実践できそうです?」

 最後の最後に出てくんな!しかも核心を・・・うぅぅ。


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