病院とデジタルの四方山話
子供の時、熱出したり足捻挫したりすると、親に腕引っ張られてお医者さんとこに放り込まれてました。行く前はイヤダイヤダ言いつつも、行ったら行ったで目の前の風景に興味津々になっていたのを思い出します。
今でも妙に覚えてるのは、先生がカルテに病状を書き込む姿。いかにも重厚そうなペンで、学校では習ったこともないような文字をがしがしと書き込んでいく。要はドイツ語なんですけど「うわぁ、この人はすっごい難しい文字を読んで書ける人なんだなぁ」「それだけ頭いいんだなぁ」と畏敬の念を覚えたものです。またそれがカッコ良く見えたんですよねぇ。子供の思考回路なんて今も昔もそんなもん。
時は流れ現代。立場が入れ替わり、渋る親の腕引っ張って病院に連れていきますと。今の先生達は液晶ディスプレイとにらめっこし、マウスとキーボードを操りカルテを記入していきます。さすがにPC本体は見えないところに隠されているものの、それでも一目でエントリーモデルであろうと看破できる処理速度。ぺっこぺこの本体付属キーボード。へなへなの安物マウス。製薬会社からの貰い物らしきぺらんぺらんのマウスパッド。
なんというかですね。せつねぇ。見てると泣けてくる。
俺の年収の5倍10倍20倍は軽く稼いでいるであろうこの人達が、なんでそんな悲しいPC環境を使わにゃならんのだ。せめてRealForce位使わせてやれっつーの。
てのはともかく。普通ならばこっから医療情報がどーだの電子カルテがこーだのといらん愚痴を垂れるのが王道なんでしょうけど。あいにく当方その辺の知識は持ち合わせていませんし、てけとーにごまかして書いたところで看破されるであろうことが容易に推測できてしまうので。ここではあくまで見たこと聞いたことだけを書き散らかしてみる次第。何も考えず文章繋げてるだけという説もあるけどな。ほっとけ。
それにしても。父を度々病院に連れていった関係で、いろんなお医者さん先生のPC入力シーンを確認することができました。いい機会なので傾向としてまとめてみましょうか。
ひとつめが一通りのカルテ入力をすべて患者の前でやって完結させてしまう先生。ある種一番PCに馴染んでる先生と言ってもいいでしょう。私から見れば幾分のもどかしさは感じる先生が多いものの(例外あり後述)、それでも十本の指を使ってタイピングをして、必要ならば画面を呼び出して私達に見せて・・・というのを一通りこなせると。
次がPCへの入力とメモ用紙への記入を並行させる先生。予約や処方等、他部署に連絡するような部分にはPCを使い(というかPC以外に手段が無い可能性大)、患者さんを診ている時は極力PCには触らない・・・といった感じで切り分けてる先生が多かったように感じます。
そして最後に、患者の前ではPCに触らない先生。診察中はキーボード触りもしないし、ディスプレイの画面を観ることですら必要最小限。じゃあいつ入力するか?どうやら「ありがとうございましたー」と私達が診察室を出ていってから、まとめて入力してる模様・・・つまり裏を返すと、PCの入力はあまり得意ではない?まぁあくまで邪推ですが。ただし、体の正面が常に患者の方に向きますので、診て貰う際の安心感ってのは確実にあると思います。一概にどっちがいい悪いは言えないのかなと。
こうゆうタイプ分けができるってこと自体、PC入力における先生の好き嫌いも垣間見られるのかなっと。ちなみに面白いって言っては失礼なんですけど、キータイプの速度と(推測される)先生の年齢に、明確な相関は見受けられなかったです。確かにタッチタイプするのは若い先生が多かったですが、一番早かったのは明らかに四十代後半か五十代の先生(脳外科)でした。綺麗に十本指使ってましたし。下手すりゃ私より早いかも。論文書かなきゃいけない関係とかでしょうかね?
一方で二本指タイプに終始する二十代半ばの研修医さん(総合診察科)なんてのもいたり。顔馴染みのベテラン看護師さんに「早く入力しなさいよー。ごめんなさいねぇ先生遅くて」とか言われてしまい、先生と二人して苦笑い。
まぁあれだ。揉まれて強くなれよ若人よ。何を偉そうに。
さてここまではいわゆるお医者さん側の話だったのですが。同じ医療に身を置きながら、環境としては真逆を突き進む現場ってのも存在します。大方の察しはつくと思うのでしょうが、看護師さんの世界。父の入院付き添いの関係で、こちらも様々な現場を眺めさせて頂きました。病院に居る時って案外ヒマなことが多いのよ。
こちらの世界は相変わらず紙情報が乱れ飛んでおりますな。理由単純、何かアクションをするにあたっていちいちPCまで向かう猶予が無い。一分一秒が勝負の世界でそんな悠長なことやってられっか。当然全ての看護師さんがメモ帳にペン必須です。
さらにその文化を象徴するのが昔ながらの「手の甲メモ」。ほら昔学校で忘れ物を繰り返した時に、先生にマジックで「ハンカチ」とか「算数プリント」とか書かれませんでした?あれをやるんですよね、看護師さんは。重要な用件を忘れない為に。中には手の甲だけでは飽き足らず、腕まで使って書き足す猛者も。すげーよあんたプロだよ。一度雑談交じりに「こんなのあるんですよ」と振ってみたんですけど。返ってきた答えは「んー、でも直接手に書いた方が忘れない」でした。確かに身を削るだけのことはあるということなのか。いつもありがとうございます。
PCの世界にどっぷりと浸ってる私ではあるのですが。この話にはむしろ共感を覚えたりするんです。そりゃそーだよな適材適所だと。何が何でもデジタルで、で行ける程世の中甘くないんだよなー。お役人さんは電子カルテ電子カルテ言ってるみたいなのですが。ここら辺肌で理解してないんじゃねーのかなぁ?・・・というのは理論としてはちと飛躍してますかね?
とはいえ、こちら側でもそれはそれでせつない話が。
普段の業務はアナログで仕切るにしても、他部門とのやりとりはデジタルでやらざるを得ない。日々の業務記録もデジタルで残さざるを得ない。したがって、どうしてもある程度のまとまった時間をデータ入力作業に取られてしまうようで。お世話になっていた階のナースステーションでは、当番制で一日分をまとめて入力する形を採っていた模様です。
ある日の午後8時頃に病院に向かうと、父はナースステーションで夕食を食べ終え、(食事介助を受けてました)ぼんやりとまどろんでおりました。そのちょい横では看護師さん(女性)がPCとにらめっこしています。横にはA4用紙に手入力された小難しい書類の束々。あー、これ全部入力するのかぁ大変だろうなぁ、でも手伝う訳にもいかないしなぁ・・・と眺めていたところ。
ピーッ!ピーッ!ピーッ!
長渕剛「とんぼ」のイントロではありません。小ネタやめれ>俺。鳴り響くのはナースコール音。ステーション内に他の看護師さんの姿はなし。どうも日勤と夜勤の入れ替わりだからなのか、他の方も出払っている模様です。仕方なくその看護師さんがキーボード叩く手を止め、ナースコールの音を消し、病室へと向かいました。
数分後戻ってきました。さて再開・・・とPCの前に腰かけた瞬間ピーピーピーッ!再び鳴り響くナースコール。止めて行って戻ってピーピーピーッ!止めて行って戻ってピーピーピーッ!・・・なんとまぁタイミングが悪いというか運が悪いというか。
四往復か五往復か、ステーションに戻って来た看護師さんキレました。そして絶叫。
「んもーーーー!入力終わらねぇーーーーーー!帰れねーーーーーー!!!」
・・・完璧に男言葉ですな。えっとすいません存在感は薄いとは言え、私ここに居るんですが。横に父さえ居なければ私もここには居ないんですが。見てはいけないものを見てしまったような・・・。と同時にそれまで眠気に耐え切れず舟をこいでいた父、自分が怒られたのではと勘違い。びくーん!となっちゃって車椅子から転落寸前に。あわわわわ危ない危ない!
「ごめんなさいねー。お父さんのことじゃないからねー!」
顔赤らめながら父の姿勢を戻す看護師さんなのでした。これってギャップ萌え?違うと思います。
ただこれもやっぱり魂の叫びなのよね。本来ならばデジタル化に伴って、自分の仕事が量的には減り質的には向上する、という姿を思い浮かべていた筈なのに。現実にはデジタルにするための仕事「だけ」が増幅してしまい、本来の業務が圧迫される・・・。何も医療だけに限らず、全業種全職種に蔓延しているデジタル病とやらの一端なんでしょう。
どうやったら根本から「治療」できるのかな・・・想像以上に根は深いぞ。
まぁこんな具合で、断片的な小ネタをかき集めてみた訳ですが。思いの他長くなっちゃったな。ごめんなさいね(直す気は無し)。
勿論現実世界でも色々と考えられてる筈で。如実なのが医療情報技師、それに類する情報エキスパートの育成ですか。インターフェイスの点でも、タブレット端末に手書き対応させたり、電子カルテを紙のカルテの使い心地に極力近付けようという動きも活性化されているようです。しばらくはいろんなアイデアや製品が世の中に出ていっては試される、の繰り返し。医療現場と言えどもデジタルの流れには逆らえない以上、対応策打っていきましょうということなんでしょう。良く言えば産みの苦しみ、と解釈できないことも無い。
ただそれでも、今のシステムって「人が機械に合わせる」傾向が強くなってますし。本来仕事ラクにするのがデジタル化の目的である以上は、それが却って人を苦しめる姿ってのをやはり見たくありませんし。
ですので、是非ともそうはならない方向での試行錯誤をお願いしたいです、てのがまとめということになりますかね。無理矢理ですけど。あぁ結局電子カルテにも言及しちゃったなぁ。まぁいいや。んじゃ今回この辺りで。
そういえば、これで当分病院に行く機会も無いんだよなぁ。次に行くのは・・・・・・自分が患者になった時か。その時に果たして病院に通えるのか。救急車すら呼ぶこともなく、橋の下で誰にも看取られること無く野垂れ死に・・・・・。
考えないでおきましょう。うん。思考停止。