痛勤地獄体験記


 とにかく昔から人混みってもんが大嫌いでして。 特にあの通勤列車ってのは何とかならんもんかの、と 考えているんですが。

 だってさぁ、あんなの人間が耐えられる環境じゃねぇじゃんか。 人間か漬け物かわかんなくなる位に、車両に詰め込まれてさぁ。 目的の駅に着くまで身動きすらできず、ただひたすら じっと堪え忍ばなきゃいけねぇんだぜ。あんなの毎日毎日 やってたら自律神経麻痺するっての。

 という訳で、私は会社がフレックスなのをいいことに 毎日座れる高蔵寺発の列車で通勤することにしています。

 本当は出先がフレックスなだけで、本当の自社は 「毎日9時〜6時」なんですけどね。いいじゃん、相手が そのようにしていいって言ってるんだから、とムリヤリ 丸め込んじゃいました。

 という訳で、入社以来、実はほとんど「痛勤」ってのを やってなかったんですけど、先日、久々に体験してきましたよ。 「痛勤」。

 ノートパソコンを駅の網棚に置き忘れて徹夜で探し回ったという 話は前回に書きましたが、これは無事ノートパソコンを 保護してから、のお話です。

 ノートパソコンを無事受け取りのが再び駅のホームにたどり着いたのが 7:30頃でした。 本当はこの時点で心身共にヘロヘロだったのですが、 「ノートパソコン探し回ってて疲れ切ったので休みます」 なんて口が裂けても言えません。それにその日はその日で コーディングの〆切も控えており、休むなんて悠長な 事とても言える状況ではありませんでした。

 で、この時間だと、一度高蔵寺に帰ってしまうと、どう見積もっても (普段の)出社時刻には間に合いそうにない。という訳で ノートパソコン受け取った駅から岡崎まで行って、 そこから名古屋に戻ることにしたんです。時間的には 逆に早く着き過ぎちゃうんですけど、その分早めに帰ればいいや、 とそうゆう皮算用でした。

 という訳で、愛知環状鉄道の高蔵寺方面とは反対の列車に 飛び乗り岡崎駅へと直行。ここまではよかったんですな。 愛環で座れないなんてことはまずあり得ませんから。

 問題は岡崎駅に着いてから、なんです。

 人。人。人。右見ても左見ても前も後ろも人だらけ。 「おいおいおい、これ全部名古屋向かう人?」 その通りでした。

 あ〜これじゃ座るなんて夢のまた夢だなぁ。岡崎から名古屋まで 30分だっけ?なんとか耐えるしかないなぁ。まぁ仕方ない。 吊革に全重心ぶら下げてガマンするか・・・。

 そう考えてる内に名古屋行きの快速列車が到着しました。

 「・・・・・・・え?」絶句する藤原。

 あのぉ、列車の中既に満員なんですけど。まさかこれに乗って いけと?

 既に精神的に疲れを感じてる私を後目に、周りの人間が ドヤドヤと中に入っていきます。既に乗り込んでる人なんか 関係ありません。おしあいへしあい、神戸精鋼FWの如く 突入しています。

 一瞬躊躇しました。どうしよう、これ乗り過ごす? でもこの後も似たようなもんだしなぁ。これ乗らないと 間に合わなくなるかもしれないしなぁ。

 「ええい、どうにでもなれ!」思わず一緒になって 乗り込んでしまいました。この判断は間違っていたと 後になって思いました。

 おいおい、これは電話ボックスに何人入れるかギネスブック 挑戦大会か、と思える人間を乗せて列車は走り始めました。

ぎゅううううう。

 苦しいよぉ。空気薄いよぉ。吊革なんて夢のまた夢。 人と人の間に挟まれて身動きひとつできません。 手も動かせません。しかも肩にはノートパソコン背負ってます。 その重量が、ただでさえ皆無な私の体力を確実に 削っていきます。徹夜明けの体にこれはこたえるよぉ。

 確かに高蔵寺から名古屋乗るときでも満員列車に乗る 機会はありますが、ここまで人が乗るなんてこと、 人身事故でも起こらない限りまずありえません。 人と人の間に何センチかは必ずスキマあきますし、 なんとか移動して吊革なり窓際の壁なりに逃げ込む ことも可能。

 私は初めて知りました。これが「痛勤列車」なのですね。 私は井の中の蛙だったのですね。ごめんなさいごめんなさい もうしません。何を。

 う〜、まだ5分しかたってないよぉ。まだ25分もこの状態続く の〜。といい加減ダウンの兆候を見せ始めた頃(早いなおい)、 列車が次の駅に到着しました。

 どやどやどや〜。ひえ〜。まだ乗り込んでくるの〜。 勘弁してくれ〜。頼む〜。

 体どころか指一本動かせなくなってしまいました。 体の間のスキマなんかある訳がなく、完全密着状態。 私の左側では30代も後半、ちょっと頭も寂しん坊の おっちゃんが涼しげな顔してスポーツ新聞眺めてます。 すごいよあんた。こんな状態でよく新聞なんか読めるなぁ。

 背中は背中同士、またおっちゃんの背中と密着しています。 首を動かすことができないので推測しかできませんが、 おそらく後ろのリュックの当たり具合から、かなりのおでぶちゃんかと 思います。ただ、これは結構ありがたい。安心して 体重を背中にかけられます。後ろリュック背負ってるから 密着状態ではないのもさらに幸い。

 問題はなぁ、これなんよ。右45度の位置で完全密着に なっちゃってる、年齢24歳程度と思われるお嬢さん。 結構な美人。上半身完全密着状態になっちゃってるよぉ。 こっちはこっちで接触角度変えたいのは山々なんだけど、 360度から圧力かかって何も動けない状態だし、 お嬢さんはお嬢さんで同様みたく、身動き取れない状態。

 まいったよぉ、お嬢さんが「もうどうにでもなれ」みたく 全体重こっちに押しつけてくるよぉ。ちょ、ちょ、ちょっと。 胸、完全に肘に当たってるよぉ。

 「これはこれでいいことなんじゃねぇのか」とお思いの 殿方も多いのかも、しれないけど、これはちょっとマジで 勘弁してほしいよぉ。ちょっとでもこっちが動こうものなら 即座に痴漢扱いされちゃうじゃんか〜。え〜ん。これ 一種の拷問だよぉ。

 前々から聞きたかったことなんですが、女性の方々って こうゆう状況イヤだとか思わないんでしょうか。 どこの馬の骨ともわからんようなヤツと 肌密着させられて。これも毎日毎日のことで麻痺しちゃうん でしょうか。やっぱりイヤイヤながらも仕方なく列車に 乗り込んでるんでしょうか。この辺の心理ってのが 何となく気になります。

 とまぁそんな訳で、もうどうする事もできず、体を動かす体力もなく、 ただただひたすら「名古屋に早く着いてくれ〜」と 祈るだけの時間を過ごしていました。

 見知らぬお嬢さんと肌を密着させたまま、何分が経過したでしょうか。 「金山〜、金山〜」と目的地名古屋のひとつ前の駅にたどり着きました。 突然背後から、ずんっずんっ、と圧力を感じます。 思わずドアの外にはじきだされる私。

 どやどやどや〜。なんかいっぱい人が列車から出ていきます。 そっか、ここで降りる人が多いんだ。ていうか、そんなに 乗ってたんか、この列車に。

 一通り人が降りていくのを眺めた後、再び車内に戻る私。 そこにはほとんど人がいない、がら〜んとした列車の風景でした。

 「これで痛勤終わった〜」体の力がドッと抜ける私。

 ぽか〜んとしたまま、名古屋駅にたどり着きます。 到着と共に、ふと目の前にそびえたっていた自動販売機にフラフラっと。

 缶コーヒー。がちゃり。ぐびっぐびっぐびっ。ぷは〜。 うめ〜!!久々でした。こんなにうまい缶コーヒーは。

 完全に力使い果たしちゃいましたよ。その後、勤務時間中 15回以上睡魔に負けて意識失ってしまう訳なのですが、 内10回はこの痛勤で体力使い果たしちゃったのが原因ですね。

 自販機にもたれて一休みしつつ、人だかりを眺めながら 思ったのですが、やっぱこうまでして命かけて通勤する必要性 ってあるのかな?ここまでして勤務場所まで向かわなきゃ いけないものなのかな?それとも毎日毎日こうゆうこと続けて いる内にみんな慣れちゃって、文句言う気にもならなく なっちゃってるのかな?それで本当にいいんかな? いつまでも不満は不満、ガマンしていくだけ、それで 本当に幸せなのかな?

 ついつい、いろんな事を考えてしまいました。

 さて、そろそろいいかげん行かなきゃな。あとは地下鉄乗る だけか。あとちょっと。歯食いしばってがんばろ。どうせ 今日一日だけだ。

 地下鉄のホームに辿り着く私。

 「え?これみんな地下鉄乗るの・・・・・・?」

 以下、繰り返しにつき省略。


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