壮絶椅子取り合戦


 かつてそれは、紛れもない「権力の象徴」でした。

 座るとキーキー音がする古ぼけたパイプ椅子から始まり。高さ調節のみ可能な事務椅子で実績を重ね。部下がつくようになればなると肘当てがつき、背もたれの高さが変わり、リクライニング機能が付き。地位の高さがそのまま社内の地位と直結していました。

 TOPともなるとも値段の方も50万100万当たり前。もはや「その人しか座ることが許されない」的な雰囲気が、椅子自体から醸し出されます。訪れたお客さんと「ほー、結構なものを使ってますねー」「いやーここまで上り詰めるまでは苦労しましたよーわっはっはー」的な会話を繰り広げる訳です。ホントかよ。

 まぁそれはともかく。実際にこの椅子が自らの作業内容に合致しているか、なんてことは口にすら出してはいけない、考えることすら許されないという「暗黒時代」が長く続いているのは事実ですな。多分。自ら選ぶモノではなく、上から与えられる支給品。

 しかーし!そんな時代はもうとっとと終わらせなければなりません!椅子が高い安い程度でごちゃごちゃ威張り散らす時代なんざとっくの昔に死滅してんだよボケ!!つーかそもそも俺が腰痛持ちの痔持ちになった原因の一端も派遣時代に使わせられたボロ椅子にあるんだからな!責任取れやクソカス共がぁああああ!!!

 落ち着け俺。

 そんな訳で今回のテーマは椅子でございます。わかっとるわ。

 まぁペーペーとはいえそれなりの長さで派遣プログラマやっては様々な場所に常駐したりもしておりましたが(現在は自社仕事のため中断中)。それこそイスに気ぃ使ってるような企業なんて、ひとつも無かったですね。まぁ世の中広いですから全部がそうだとは言いませんけど、そこまで頭回ってる所自体、全体の0.1%にも満たない位なんじゃないかしら?

 まぁ仕方ないという説もあるんですけどね。そもそも金に余裕あるんだったら外注使うという発想自体が無いはずですし。ハナから外注のために周到な設備を用意するということ自体アテにしてたら精神衛生上良くないっつーある種の諦めもありますし。パイプ椅子上等、場所があるだけでもマシ、そんな開き直り感がそこに働く人間の感情を支配してる、みたいな雰囲気もありますな。

 そんでもさぁ。やっぱり実際にそこで作業する立場にしてみたら、少しでもいい環境使いたいのはやっぱり本能な訳で。椅子の場合でしたら、最低限高さ調整位はまともにできるのが欲しいし、やっぱり肘当ては欲しい。こうゆうちょっとの差が一日の疲れにも影響したりしますし。逆にヘンな椅子あてがわれたりすることで、腰痛や痔引き起こしたりもあり得ると。ほれほれ、口じゃイヤイヤ言っておきながら体は正直なもんじゃのぉぐっへっへ。用法違うよ。

 そんなんだからでせうか。以前あったそんな出来事。

 その日は常駐場所にて大規模な引っ越しがありまして。人員総動員であーだこーだと荷物運び込んだりしてたんですな。そのオフィスもバカみたいに広くてさぁ。そんだけ人も多いということなんですけど。もう一通り荷物動かし終えたらもうへとへと。ぐったりでしたわ。

 そんな折り。そこのフロアの責任者さんが、こんな事を言い出したんです。

「この椅子これから倉庫持っていくんですけどー。よかったら今の椅子と取り替えてもいいですよー。」

 確かにえっちらおっちらと荷物運んでる間にもちらちらと横目にしつつ気になってはいたんです。あの椅子の固まりは何なんだろうと。普段わてら(=外注)が座ってる椅子とは対してランクは変わらないん(肘当て無し)ですが。それでも見た目から見ても新品らしいぞと。そんな椅子が結構な数並んでたんですな。あー今の椅子結構腰の当たり悪いんだよなー。一日座ってるとお尻痛くなるし。あわよくば今のと取り替えられないもんかなー。

 なーんて思ってたもんでしたから。まさに渡りに船の一言でした。おーラッキー。んじゃ取り替えましょうかねぇ・・・と腰を上げた5秒後。

 目前にはにわかに信じがたい風景が。

 同じセリフを聞きつけた外注連中が、新椅子置かれているスペースに猛然とダッシュ。ろくに座り具合も確認せず、新しい椅子を抱えて自分のスペースに走り戻る。

 一瞬で姿を消した椅子の群れ。

 ・・・・・・・・・きょっとーん。

 目を疑いましたよ。無政府状態で起こる商店の略奪ってこんな感じですか?てな具合の早業でした。

 ちなみに競争に負けて椅子取り損ねたということは無く。「あ、俺には合わない」と戻しにきたり、取り替えて古い椅子戻しにきたりで、数分後には再び椅子がスペースに戻って来たりしましたので、その点はご安心を。新旧織り交ぜて自分の腰に合いそうな椅子をチョイスさせて頂きました。

 とは言え、やっぱみんな考えることは同じなんですかねぇ、と妙な感慨にふけってしまった瞬間でしたね。やっぱ人それぞれに不満抱えてるもんなんだなぁと。ホント、ビデオに撮って見せてあげたい風景でしたよ。

 そうゆう意味では、実際の作業者さんよりは、それを支える、環境を用意する立場の人に言いたい。

 たかが椅子だと思うでしょ?でもね、されど椅子でもあるんですよ?

 先日読了したXPエクストリーム・プログラミング Web開発編にも、こんな一説があります。ちょっと引用してみましょうか。

プログラミング用のいすには、背中を十分にいたわってくれる、上等なものを選ぼう。快適に仕事をしているメンバからは、はるかに質の高い仕事ができあがってくる。私たちの会社では、すべての備品のコストを合わせても、私たちのいす1脚の値段に及ばない。選んだいすが身長に合わせて調節できるか、デスクからデスクへとすべって移動しやすいか、確認しよう。うまくやれば、メンバは作業を行うデスクよりもいすの方になわばり意識を持つようになるだろう。
(p.52より引用)

 そうなんですよ。「なわばり意識」。

 この一言で、なぜに作業者が自分の体に合うものを欲しているか。

 なんとなくでも、わかるような気がしません?


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