プログラマの値段(派遣編)
話としてはちょっと、いや結構前になるんですが。
鈴木みそ「銭」が面白かったんですわ。これお勧めマジで。むしろ普段マンガ読まない人間ほど読め(理由:私がそうだから)。特にプログラマさんの場合、「アニメの値段」と自分の姿がダブる場面も多々あるのではないでうか。情熱と技術v.s.コスト。ひとごとでは決して済まされませんぜ?
んな訳でちょいと触発されて書いてみたりする。要はパクリとも言う。言うな>俺。
基本的には今までもタブー無視・感情優先で書き殴ってきてきたつもりなんですけど。考えれば「銭」に関してはそれほど深く踏み込んでなかったなぁというのを強く感じまして。
というのもわてら開発側って、銭のことにはどうしても無頓着になりがちなんですよね。そりゃそうだわな、という側面もある。だって聞こうと思わないし。教えてもくれないし。
「開発側は余計なこと考えるな。その辺のコントロールは上の俺らがやるから、そっちはモノ上げることに専念しろ」で完全分離させてしまった方が結局効率的、ということになってるんでしょうか。
そんでも結局はおしごとな訳ですから、銭があるからこそお給料が出て生活できて、会社も利益があるからこそ存続できる訳で。
んじゃちょっとばかし今回切り込んでみましょうかねぇ。え?これ書いたらもう戻れなくなる?いいんよ。既に戻れないんだから。
つー訳で。暗黒の聖地に足を踏み入れてみることにしましょうか。
じゃあまず単純に当時の私の事例から。
某企業に派遣(正確には請負型顧客常駐、現実は単なる偽装派遣)された時の私のお値段が、
650000円/月。
これだったらしいです(数値を保証するものではありません)。ただその時の周りの話やら比較対象やらで、それなりに精度はあるかな、と判断してますので、以降はこの数字をベースにして計算してみましょう。
その時の契約期間は半年でしたので、それを単純に6倍すれば、半年間で390万円が派遣先から派遣元へと「売上」として渡ることになります。
その当時の私のお給料が大体月給22万円。ボーナスが約50万円(いずれも税込み)。したがって私への還元額が半年で182万円。会社として私を雇用するために必要な維持費(各種保険の会社折半分や積立、営業/契約や事務手続きのための間接人件費、家賃光熱費雑費etc)が月あたり月給と同じくらいかかってるというのが通説なので、それに従うと費用として会社が支払うのが半年で132万円。
つーことは。390万−182万−132万=76万円。
これが半年間で会社として確保できる「雑利益」ということになると。派遣の場合、その間に作成した成果物が自分の手元に残るというケースはほぼ皆無ですから、純粋に「人件費の見返り」のみが派遣元の利益=次を回すための命綱となると。
実際にはここからさらに法人税やらなんやらでややこしい出費とかが引かれることになるので、将来資産になりうる額ってのはそれこそ半年で30万〜40万、月換算すれば6万〜7万あればいい方・・・。
やっぱ不況なのねぇわはははは。笑ってる場合か俺。
ちなみにいっこ余談。契約の中で「時間外労働に対して対価を払う/払わない」の区分によって、派遣される人材の扱いは大きく変わります。派遣元からすれば当然お金は頂きたいのがホンネ。デスマーチで休日返上徹夜当然ともなれば、この時間換算だけで収益1.5倍!2倍!なんてこともあるらしいです。ただし当然のことながらこのご時世ではこうゆう契約を結べる確率は相当低くなっておりますので、最近はよくて「早く帰れ」、大抵の場合は「サービス残業」で賄われてるのが現実です。もしすべてのサービス残業が強制支払いということになれば、かなりの確率で会社が倒産することなるのではと推測されています。この負担額はシャレにならない程デカい。・・・まぁそれで潰れるような会社だったらとっとと潰れてしまった方が世のため人のためなんですが(冷淡)。
まぁそれはともかく。少なくとも当時の自分の範囲内で言えば「お金は回ってる」という状況下にはなっていたと。
さてその上で。これまでに挙げたのはあくまで「一人」としての視点での計算でしかありません。派遣に出されるのは私一人だけではありませんし、それこそ出される人間はスキルも年収もまちまち。
さらに言えば、冒頭の650000円でさえ、発注側からすれば「高過ぎる」という認識でほぼ一致しているであろうことはほぼ間違いありません。派遣の世界では、質さえ問わなけりゃそれこそ人なんて掃いて捨てるほどいますし。最近では単価50万とかそれ以下になってるなんて話もちらほら聞きますし。完全な買い手市場(現場では質が涸渇してるんですけどね)。
そんな事情は、こんな単純な足し算引き算では出てきませんよ、と。かくして様々な「からくり」というのが登場する訳でございまして。んじゃいよいよコアなところへと足を踏み入れましょうかね?
売り手側(この場合派遣元)から見た場合、経営的に注意すべきポイントがいくつかあります。
- 高い人材をより高く売る
- 安い人材を高く売る
- 売れない人材をタダ同然でも売る
派遣市場においてはその会社の持つ人材がそのまま「在庫」でもあり「商品」である訳ですから。まさに外に出してナンボ。会社の利益率を高めるために、いかにこれらのポイントをクリアするか、というのが生存競争の中で大きなウェイトを占める訳。
で、1.に関してはまぁ説明不要でしょう。
「ん?Aさんが欲しい?あっそ。じゃあ月2000万。え?高い?イヤだったら他あたってくれない?あのねぇおたくだけ相手してる訳にもいかないんだからウチも。冷やかしのつもりだったら帰ってくんない?」
てなことをやればいいのですが。いつの時代背景だよ>俺。
ただ現実の世界でこのパターンが実践されることはほぼ皆無と断言していいですね。だってそんなに高値で売れる人なんかいないもん。前提条件が成り立たん(笑)。
まぁ例外的にそうゆう人材がいることもありますが。基本的に買い手(派遣先)は「高い人1人取る位なら安い人3人取る」方を選びますから。派遣元がこうゆう人材を囲い込むことですら消極的です。それでも囲い込みたいんなら引き抜きます(笑)。ですので需要と供給のバランスを超えた取引は少なくとも派遣市場においては存在しないと。
という訳で、売り手側として現実味のある対策となると、圧倒的に2.もしくは3.ということになる訳です。
んじゃどーやってやりくりしてんのか。順番に挙げていってみましょうか。
まず一番効率性の高い手段として常用されているのが「抱き合わせ」。
売り手が1人60万で見積もり出しました。買い手は高いと言いました。でも売り手としてはこのラインは死守したい。となると、
「じゃあもう一人付けます。二人合わせて100万でいかがでしょう」
となる訳です。もちろん見積もりの上では「50万*2=100万」なんですが、現実的には「60万+40万=100万」なのは言うまでも無く。こうして「使える人」に「物足りない人」を抱き合わせて、自分の持ってる在庫=人材をさばいていく。
極端な場合「60万+0万=60万」「80万-20万=60万」なんてことも決して珍しいことではありませぬ。要は「じゃあすいません、一緒にこいつ(新人)引っ張ってもらえませんかね?」ってこと。スーパーの賞味期限切れ値引き販売、もしくはそれ以上のやり方ですわな。
んじゃ次。我らにとっては唾棄すべき以外の何者でもないデスマーチ。これも事と場合によっては巧みに利用されることがございます。表面上は「応援要員」とかになってますが、事実上は単なる「生贄」。
燃え盛ってる現場においては新人クンも立派な「応援部隊」という肩書きを経て戦場に送り込まれることになると。イコール、タダ同然または抱えてるだけで赤字だった人材がいきなり月30〜40の売上を稼いでくることになる訳です。買い手にしてみたらもちろんいいことなんか何も無いわけですが、まぁ現実には御公認火事場泥棒、みたいな形になっちゃってます。こうゆう正常な判断ができなくなってこそのデスマーチですから。
当然ながら生存率は低い(離職率は高い)ですが、売り手にしてみれば途中で逃げられない限り、プロジェクトがどうなろうが売上は確保できる。在庫遊ばせておく位なら、と火中に栗をバンバン放り込む。
で、残念なことにこのご時世、どこもかしこもデスマーチばかりなんだな。むしろデスマってないプロジェクトを探すほうが難しい。それが現状です。ビジネスチャンスと言えば聞こえはいいかもしれませんが実際に行われてるのは・・・。
どう?吐き気しそうでしょ。人間のいやらしーい部分がモロに表に出てきてしまいますから。でもね。残念ながらまだ終わらないんだな(笑)。
基本的には上の2パターン(抱き合わせ/生贄)を駆使しつつ在庫をさばいていく訳なんですが、それでもさばき切れないケースが出てきます。簡単に言ってしまえば、
- 安過ぎる
- 微妙に高過ぎる
このふたつにどう対処していくか。
まず安過ぎるに関しては「口減らし」で対処する方法があります。
これに関してはもう売上はハナから無視。バイトした方がマシな二束三文同然の値段で売り払い、買い手もそれを承知で買い取る訳です。
この場合、
売り手:どうせ会社にいたってコストかかるだけだし。いない方が手間かからない分ラクだしなぁ。まぁ辞めるなら辞めるでそれもよし。育ったら育ったでそれもよし。
買い手:あーどうせ実力は期待してないんだから「お勉強」と称して雑用でもやらしとけ。給料は向こう持ちだしタダみたいなもんだ。まぁその上でもし伸びる要素あるんだったらそれはそれでラッキーということで。安く使わせて頂きましょう。
お互いにはこんな心情が働きますよと。お互いに「恩の着せ合い」、何かありましたらそん時はよろしくぅ、みたいな義理人情的側面もあるのでしょうが、結局はお互いのコスト減の思惑が重なるということなのでしょう。
逆に微妙に高過ぎる場合。「微妙に」というのがキーです。主に年収の上昇にしたがって、売上/維持費のバランスが取れなくなってきた場合等が考えられます。
まぁこの場合は単純に昇進させて管理職にあげる、または単純にリストラでもいいのですが、一番よく使われるのが「お値段据え置き」。まぁこれは説明不要でしょ。その次に多いのが「業務掛け持ち」のパターンです。
単価は変わらないまま1プロジェクトに週4日、その上で別プロジェクトに週1日プラスしてとか。もしくはプロジェクトはプロジェクトで常駐してもらいつつ、派遣元の管理職もやってもらうとか。要は負荷を増やしてもらうことで、ちょっとでもバランスを取ってもらおう、ということです。まぁ「金貰ってるんだからその分働け」ってヤツですか。
このやり方自体「ゆとりの法則」内で容赦なくボコられてるのは今更言うまでもないのですが、やっぱどうしても過度のコスト意識とかが、こうゆう判断を狂わせる、ということなのかもしれませんなぁ。
やれやれだ。
つー訳で以上思いつくままに挙げさせて頂きましたが。普段こうゆう話を見聞きしない、私レベルの末端者でさえこれだけ出てくるってことは、それこそ本職の営業さんとか経理さんとか、まだまだいっぱいダークな話とかもあるんだろうなぁと。皆様お疲れ様です。
ただ、いっこだけ誤解して欲しくないのは「営業は金のことだけ考えろ」「開発はリリースのことだけ考えろ」ってのは違うと思うんですな。SEとPGが完全分業したところでうまくいく訳がないのと同レベルのお話。売上伸ばすにせよコスト削るにせよ、そこに一本筋が通ってるか通ってないかが、すんごく重要になるんじゃないです?
逆を言えば、上で延々と人減らしパターン述べられるってこと自体、ある意味矛盾してるんじゃないですかね?ヘンな小細工に走ることなく、もっとシンプルにできると思うんだけど。それが考えられるかどうかが、今後生き延びられるかどうかにかかってくると思うけど・・・ね?
お、ムリヤリだがなんだかまとまった。ムリヤリってゆーな。