20年後のプログラマ
ただいまー。あー今日も疲れた・・・とっととメシ食って風呂入って寝る。はぁぁ。最近毎日これだなぁ。どこでこう間違ってこうなっちゃったんだろうなぁ。これじゃあGAKU-MC「見えない雨」そのまんまじゃねぇか・・・。
ん?手紙?なんじゃらほい・・・え?
差出人「HiroKi Fujihara」?
なんじゃこりゃ。俺宛てに俺からの手紙?しかも今時手書きで・・・字体は確かに俺の字だな。わざわざKを大文字で書くところまで一緒。
・・・・・え?消印2024年?なんだなんだなんなんだ?今度はRhymester「前略」のパクリか?
びりびりびり。ばさばさ。えーと。
前略
よぉ。元気にしてっか?どうせ毎日仕事の合間に暇見つけてはくっだんねぇ文章書いて自己満足に浸ってるってところか?まぁこんな手紙書いてる俺に言われたくはないだろうが。
ちょっと珍しく手紙でも書いてみようかと思ったんだが、手紙出せるような知人も思い浮かばなくてな。しばし好き勝手書かせてもらうがまぁ気の迷いだと思ってしばしつきあってくれ。
今の俺のことでも書いておこうか。51歳になった。相変わらずプログラマのままでその日その日を暮らしてる。結婚?子供?馬鹿を言え、俺みたいな甲斐性無しが家庭なんか持てる訳ないだろ。そもそも雨露しのぐ家さえ無いんだし。
え?それってホームレスってことだって?まぁ確かにそうは呼ばれてるな。でも心配するな。おめぇん時と今とじゃ扱いが違う。単純にホームレス人口が増え過ぎて収拾がつかなくなったからな。
今じゃ仕事があるときにはそのまま会社で寝泊りして、休日には解放されてる空き地(使い道なくなった箱物の更地がいっくらでも転がってる)で寝泊り、てのが一般的だ。ホームレス向けの共同生活インフラが用意されてるんでな。風呂も入れるしトイレも不自由無い。選挙権だってあるぞ。それに今じゃ冬でも凍死する寒さにはならないしな。地球温暖化の副作用なんかじゃねぇかな?今じゃホームレスかそうでないかなんてのは持ち家や借り部屋があるかないか、それだけの意味しか持たなくなっているということだ。
え?そうじゃなくって?テメェがホームレスになった理由を説明しろって?そもそもなんでプログラマでホームレスなんだって?まぁ焦るな。どうせおめぇも身を持って知ることになる訳だからすべては語らない。部分部分、思いつくところだけを書いていくことにしよう。
まず、プログラマという職業の社会的地位や得られる報酬が下がっていったのが単純な理由のひとつだ。システムという概念が複雑化大型化するにつれて(残念ながら単純化小型化することはできなかった)、加速度的にどこもかしこもデスマーチになっちまったんだな。
当然現場は不眠不休の作業を強いられる。それを繰り返してるうちに周りにある変化が見られた。「こんなキチガイな現場で働けるのはキチガイだけだ」「まともな精神持ってるヤツは近寄りもしない」誰が言い出したかなんてのは知る由もないが、そんな考えをされるようになっちゃったんだな。まぁいわゆる差別意識の芽生えってヤツだ。
そうこうしてるうちにいつのまにか「プログラム読み書きできるような気狂いとは一緒にいられない」ってことになって、現場の中でも隔離されるようになっちまった。この時点でアイデンティティとしてのプログラマってのは事実上消えてなくなったようなもんだ。実際、今じゃこの手の仕事は開発から保守から全部ひっくるめてアフリカ諸国が中心になってる。わざわざ日本にいるのにこんな仕事してるなんて頭おかしいんじゃねぇかということらしいな。ぼさーっとしてる間にここまで変化してしまった。気が付けば給料は日雇い、身分も下の下のそのまた下にまで落ちてしまったんだ。
そんな中こんなことが起こる。「1.3事件」と呼ばれてるんだが。正月のデスマの現場でキレたPGが客のフロアに押し入って客刺して、しまいにゃ建物ごと自爆しちまったんだな。結果死者72名という最悪の事件に発展してしまった。
これで後戻りできなくなった。PG=テロリストと一方的に決め付けられたような風潮もあって、俺らはあっという間に世間から追われた。ホームレスになったのもこのあたりからだ。ただ救いになったのは、プログラマに限らず貧富の差が拡大する一方だったということ。つまり他の職業からもホームレスになるヤツが続出したんだ。だからなんだろうな。拍子抜けする位あっさりと今の生活スタイルには移行できた。なにせ周りにいるのが皆も皆ホームレス生活1年未満の初心者ばかりだから。不思議な連帯感が生まれてラクに仲間に入ることができた。
でまぁそれでも懲りずにこの稼業続けている訳だが。職場のスタイルはすっかり様変わりしたな。クライアントの部署の社員とは顔を合わせないように裏口から隔離された作業場に入りそこで仕事と寝泊り。休日前になると日当貰って裏口から出て行って野宿スペースへ・・・そんな働き方だ。
そもそも今じゃ開発側と顧客側が顔合わせて会話するなんてありえない話だしな。名前にはすべて仮名が使われるし、会話の必要があってビデオチャットするにしても顔も声もフィルターかかる規則になってる。面が割れると安全が確保できないから、ということらしい。お互いがお互いのことを何も知らされないままシステムを触る、そんな毎日だ。
・・・・・・なんかここまで読んで青い顔してそうなおめぇの顔が浮かんでくるな。まぁ心配するな。何も悪いことばかしじゃないぞ。
まず食うには困ってないからな。日雇いとはいえまがいなりにも専門職だ。それなりに日当貰えるし。根無し草みたいなもんだから気のむくままに今週はあっちの現場、来月はこっちの現場、今日は眠いからトンズラして日向ぼっこ、なんてことも堂々とできる。もちろん現場は現場で忙しいんだがなにせ国内じゃできる人間が限られてるからな。結局俺らに頼むしかない。だから力関係が行使できるのさ。地位も世間も捨てちまったからこそ手に入れることができた「権限」なのかもしれねーな。
そういえばこんなこともあった。暇な時見つけては周りの仲間連中にプログラミング教えてやってたりしたんだけど。そのうち力つけてこれまでの肉体労働からプログラマに職替えできるようになって。足に不自由抱えてるヤツだったからさ。座ってできる仕事に就けたってそいつ喜んでたよ。さすがにじんわり来たね。その時は。こんな時代になってもこの仕事に喜び見出せるヤツもいたんだなと。
おっと。そんなこと書いてる間にももう夜更けてきたし。俺からの話はここまでだ。あとはおめぇがおめぇ自身で考えて動くか受け入れるか決断しな。
あ、あと最後に伝えたいことがあって。俺もう長くないから。最近の医学の進歩は凄まじくてね。あと余命42日なんだそうだ。
とはいえもう明日には施設入って眠ったまま死を待つだけの身分なんだけどな。もう既に諸々の手続きは終えた。これから眠って起きたらテント片付けて施設向かう予定だ。そしてそのまま眠り続けるから。まぁ今日が事実上最後の夜ってヤツだな。
まぁそうこう考えてみるとこれまで51年か。システムの奴隷とか言われつつも、それでもあながち悪くない仕事人生だったのかなと。そんな風に思ってる。とりあえず爆弾で自決したバカとは違って、人に迷惑かけずに死ぬことができるってことが今一番ほっとしてるな。
という訳で。結局これが、最初で最後のおめぇへの手紙になっちまう訳だが。まぁ俺は俺でおめぇはおめぇだ。おめぇのやりたいようにやんな。俺はそこまでしか言えねぇ。
それじゃあ達者でな。いい人生だった。ありがとう。
早々
・・・・・・・・・。
あれ、なんでだろう・・・捏造だってわかってるのに涙が止まらないよママン。ホームレス云々の記述が人ごとに思えないよ。えぐえぐえぐ。
えっとまぁあれだ。設定が非現実的だとか悲観的過ぎるとかこんな文章を書くテメェが一番ヤバいとか。そうゆうのは抜きの方向でひとつよろしゅう。わかってるから。つーか慣れてねぇんだよこうゆうのは!逆ギレするなよ>俺。
じゃあ実際の話、この業界自体どうなるのか。本当にホームレス同然の職業に朽ち果ててしまうのか。それともまた違う未来が待っているのか。まぁ結局は誰にもわからないんですがね。
むしろわからないから面白いのかもしれません。まぁそうゆうことにしておこう。ムリヤリだが。