止まれ壊れたダンプカー
いきなり私事から入りますが(いつもそうだろ>俺)、先日腰抜けるよーなことがありまして。
とあるシステム(私は開発には関わってないが保守してる)に関して、機能追加の依頼があったんですよ。先方曰く「前にもやってもらったんでさくっとできるでしょ」とのことなんですが。全然同じじゃねーよこれ。随分と作り込み必要じゃねーか。しかもその機能追加の依頼ってのがA4の紙切れ数枚ってのはどーなのよ。要件全然足りてねーし。こりゃ追加で「ここどうなってんだ」と問い詰め、もとい問い合わせなきゃならんなぁ。
で、これいつまでです?
「明日」
・・・・・・はぁ?何を寝言言ってんの?画面6つあるしそれとは別に処理部分の作りこみもあるし。そこ確定するだけで1日仕事じゃねぇか。
「どーしても明日までに。もうお偉いさんが明日見るからって約束しちゃったらしい」
なんじゃそりゃー!絶対できんぞ!どんなにやっても最低3日。それ以下にはテコでも動かな・・・。
「どーしたん?」
あ、このシステムの中の人登場。中の人言うな。作った人ね。実はかくかくしかじか・・・。
「うげぇぇぇ」
ふざけてるでしょ?まったくこいつら一体何考えて・・・。
「明日だよね、仕方ない」
ほえ?
♪ちゃ〜らぁらぁらぁちゃっちゃっちゃ〜 (ドラクエの宿屋音楽風にお読みください)
「はいこれ。結局徹夜だったよ帰って寝る」
あ、お疲れ様です・・・ありがとうございます・・・。
・・・・・・って本当にできてるよ(約6000step)・・・・・。世の中にはスゲー人ってのがいるもんだなぁ。まぁ確かにこれ作った本人だからなんだろうけどそれにしても。どうよこれ?他人事のように感心するな俺。
*で実はさらにその後になって、一同の腰をバキバキと折るよーな事件が起こるんですけど。これは別のお話。
<追記:04/07/20>
えっと、いらんところで予想外のインパクト与えてしまったみたいなので補足 (複数の指摘頂きましたthx)。 6000stepってのはPerlでの6000stepかつディスプレイ部分加えての数字ですから。 そこんところ踏まえてくらはいね。それでも確かにすごいんだけど人間として 不可能な数値ではない、ということだけはご了承を。ていうか前フリにインパクト与え過ぎたな・・・反省。
でもなぁ。うーん。なーんか腑に落ちないんだよなぁ。
え?これのどこが不満なんだって?ムチャな要求に関わらずモノはできたんでしょって?まぁ確かに案件単位、プロジェクト単位で考えていけばこれのどこを懸念する必要があるんだ、とは考えてしまいがちなんですが。
でもこれが更なる悲劇を招くということもあるんですよねぇ。という訳でこっからはちゃんと考えてアカデミックに攻めてみましょーか。
・・・・・今すっごい違和感を感じたかとお思いでしょうが。気にするな。俺も感じたから。アカデミックってどの口が言うかどの口が。
こほん。
えっと、これまでにこうゆう仕事してた中で、経験的に感じてることがありまして。
なんらかの要因があってこれまでの最高スピードでモノを上げた場合、上司や顧客(要は直接作ってない人)はそれを「最高スピード」ではなく「平均スピード」もしくは「最低スピード」と錯覚してしまう、ということ。
一回スピードを上げてしまう(←ここ重要)ことで、次以降も「このスピードで上げるだろう」と思い込んでしまうことなんですな。要はブレーキ壊れたダンプカー。
おそらく上に上げたお話もこのパターンなんですよ。向こうは「できる」と本気で思ってるから、いけしゃーしゃーと明日までとか言ってくる。でまたこれに答えちゃうもんだから、次も「明日で」とか言ってくる。
で、このスピードアップがが例えばXPなりRUPなりの正当な(?)理由によって達成できたものであればまだいいんです。プロセス継続していくことにより次回以降も似たスピードを維持できるだろう、という目論見ができますから(昨日の天気ルール)。
でも実際には所詮は残業や徹夜で、物理的に作業者の時間を犠牲にすることでしかそのスピードを作り出せない、というのが現実ですから。結果どんどんすり減って削り取られて、最後ブッ壊れると。最近「できる人から潰れていく」なんて話をちょくちょく小耳に挟むんですけど、あながち無関係じゃないよーな気がするんですよね。
となると興味を抱くのは、なぜ要求する側が人命損失上等のムチャを言ってくるよーになってしまうのか。そのプロセスですわな。という訳でちょいと考えてみました。
以下ステージ毎にシーン想定してみます。あ、以下「顧客」に違和感ある方は適時「上司」や「先輩」などに置き換えてくらはい。
ステージI(初期):
(開発前)
顧客「すいません、これどーしても明後日までにやらなきゃいけなくて」
開発「えーっ!そんなん無理ですよ。」
顧客「ごめん、どーしても!他の仕事後回しでいいからこれだけは」
開発「・・・・仕方ないですねぇ。残業でなんとかやってみますよ」
顧客「ありがとうございます、お願いします」(開発後)
開発「できましたぁ」
顧客「おーできましたか!すごいすごい!(*1)ありがとうございますー」
開発「こうゆうのは基本的に勘弁ですから。今後気をつけてくださいよ(*2)」
顧客「わかりました。いやーありがとうございますー」はい、まずはこのやりとり。注目して欲しいのはなんと言っても(*1)。顧客にしてみたらムチャを言った、という自覚がある訳ですよ。それだけに本当にそれができたということに対して強烈なインパクトを残します。
で、これが「壊れたダンプカー脳」の芽生えだったりするんですよね。イヤな芽生えですが。そしてこのインパクトが強すぎるが故に、もちろん開発側からは窘められても(*2)、そんなこたぁ頭に残らないどころか耳に入ってすらいません。
そうしてしばしすると、徐々に侵食を開始する訳です。
ステージII(中期):
(開発前)
顧客「ねぇまたこれお願いしたいんだけど」
開発「えーまたですかぁ?勘弁してくださいよぉ」
顧客「そんなこと言わないでくださいよ。前回だってできたじゃないですか(*3)。 他にできる人いないんだよ頼むよ」
開発「ううう・・・わかりましたやりますよ・・・」(残業+休出経て開発後)
開発「できました・・・」
顧客「あーありがとありがと。ほらごらん言ったでしょできるって?(*4)」
開発「・・・・・・(さも当然のように言うなっての)」明らかに兆候が出始めますよね。(*3)がその典型。頼む側にすれば、「ムチャ言ってもできるに違いない」という、悲劇的な信頼感が生まれてしまうと。よって無理だなんて言っても信じてくれなくなると。
そしてさらに悪いことに(*4)で、自分の持つ「モノサシ」に実績をつけてしまうことになってしまうんです。それに伴う残業だの休出だのといった特記事項なんてのも、もちろんキレイさっぱり忘れ去られます。
ステージIII(末期):
そうこう繰り返してるうちに、とうとうここまで行ってしまいます。さぁお待たせしました。最終形態。
(開発前)
顧客「これやって」
開発「・・・・・無理ですよこんなの」
顧客「はぁ?今までだってできたのになんで今回はできねぇんだよ。お前サボってんのか?(*5)」
開発「無理だから無理だと言ってるんです期間下さい」
顧客「うるさいごちゃごちゃ抜かすなやれといったらやれ」
開発「・・・・・」(残業+休出+徹夜の末ようやく終了)
開発「・・・できました・・・」
顧客「ほらできんじゃん俺の言ったとおりだ。あ、あとこれもやっといてね。明日まで」
開発「・・・(会社辞めよう)」捏造とは言わせません。なんなら実例をうわなにをするやめr
守秘義務は守りましょう(お前が言うな)。それはさえおき、もうここまで来るともう立派なブレーキ効かない壊れたダンプカーの完成ですね。(*5)がすべてを物語ってますね。本当に吐かれるからなぁこうゆうセリフ。
まぁ比べてみると、時期が経つにつれ、完了に至る過程が無視されるようになり、過去のスピード/実績といったものだけが記憶され、印象に残るようになる。それらが積み重ねられることにより「やって当たり前」「徹夜で潰れてもソイツのせい」的な考え方が横行していく・・・ということなんですな。そしていつかは大クラッシュ。
無論、麻痺してしまったスピード感覚を元に戻す方法は存在します。それも至ってシンプルで。
- 自分でアクセル緩める/ブレーキ踏む
- 大失敗して痛い目を見る
このどちらかで目覚めるんですけど。前者が選ばれることはまずありませんね。というのも、彼らにとっては「アクセルを緩める」こと自体が失敗であり、許されない行為ですから。一度150km/hで成功してしまった以上、二度と120km/hで走ることは許されない。更に170km/hで挑戦させる。もしそれでスピード違反で捕まるヤツがいたとしても捕まるそいつが悪い・・・。そうゆう価値観に入り込んでしまうんでしょう。かくして本当に大クラッシュするまでブレーキが使われることは無いと。
なんか書いてきて哀れに思えてきたな。あ、ここまで読んで仕事出す側(顧客/上司)とかは不快感持つかもしれんねぇ。ごめんなさーいねっと。ただこうゆうのってえてして理屈云々じゃないんですよね。無意識に骨髄反射を繰り返してしまうことで起こりうることかな、と当方感じておりますので。
んでまぁまとめますけど、こんな奴隷同然の働き方したって、結局はなーんの得にならないんだろーなと。本人は本人で自分の安売りになってしまいますし。指示する側にとってもこんなもんクラッシュした時のダメージがでかくなるだけ。
となればそんなムチャは拒否しなきゃいけないし、拒否させなきゃいけないってことなんでしょーな。XPで言うところの「最適速度」ですか。「最高速度」ではない点に十分に注意。
カーチェイスはテレビの中の映像だけで十分です。壊されてたまるかっと。
え?もう壊れてる?言うなそれを。