できるヤツから潰される


 まぁ誰にだって若い頃ってのはあるもんさ。かくゆうおいらだって。

 「残業しなきゃこなせないってことは、それだけ無能ってことでしょ?」

 なーんてことを疑いも無く口にしたりしたもんさ。わははははバカだよなーおいらも。世間知らずたぁこのことよ。うーいひっく。

 実際は逆よギャク。実力なんかあったところで報われることなんざなにひとつねぇってーの。邪魔邪魔。おいらみたいにね、日が暮れたらとっとと帰ってこうやって酒に浸る・・・・それがイチバンだってーの。おーいおかみさーんもう一本つけとくれー。

 「あんたぁ、飲み過ぎじゃないの?もうやめときな」

 うるへー金ならあるわいツベコベゆーなーがっしゃーんきゃー。

 

 ていうか酒も飲めないくせに何故にそうゆう小ネタに走りますか>俺。

 まぁそれはともかくとしてだ。確かに言ってた。残業は無能の証だと。残業するヤツは脳味噌無いからだと。

 きゃーーーーー!!はずかしーーーーーー!!

 どこのどいつだそんなこと言ったのはーーーーー!!

 悪かったな俺だよ。

 まぁ確かに当時(つってもせいぜい数年前までだけどな)であればそうゆう側面もあったのかもしれません。それこそ生活残業で糊口を凌いでなんて話もありましたし。今でも確かにそうゆう文化が場所によっては残ってはいるかもしれません。長時間働いてるフリしないと評価されない、とかね。

 でも今のご時世、正確に言えばこの考え方自体もすっかり変わってしまったよなぁ、というのがあって。生活残業が完全に死語と化し、代わりに「サービス残業(未払残業)」が世を席巻するようになったようにね。つー訳で己の過去の恥さらしも兼ねて、この辺のところを突っついてみようかと。

 さて、今回いきなりタイトルでキメウチさせて頂いたのですが。タイトル見ただけですと、印象はまっぷたつに分かれるのではないでせうか。

 こんな感じで。両極端だなとか言わない。

 後者の感想を抱く人の背景には、おそらく「できるからこそ多少業務量が増えてもこなせる」「できないからこそ作業量が増えるだけで潰れる」なんて思想がバックにあるからかと推測されます。実のところ以前の私はそう考えてた部分ってのもあります。

 でも。今なら確実に断言できます。この思想明らかに危険です。今日たった今、この場で捨ててください。その考え方がエースを死に追いやってしまう可能性すらあるのです。

 今からそれを説明します。できる人から潰れるプロセスってのはこのように進んでいくんです。

図1

 こっからはまた図を多用します。ウザくてごめんね下手なのに。

 上の4つの物体はそれぞれのビーカーと中に注がれた水、と思ってください。え?とてもじゃないけどビーカーに見えない?えーとね・・・・・5円玉ぶら下げて・・・・ビーカーに見える・・・・ビーカーに見える・・・・・ほら見えた。をい。まぁそうゆうことにしといてくださいお願いですから。

 で、ここではビーカーの大きさが各人が1週間の定時(←ここ重要)にこなせる業務量、中の水が実際にこなしている業務量、と考えてください。

 これだけを見れば、確かにDさんよりもAさんの方が週あたり多くの仕事をこなせる、従ってこなせずに水こぼす(=潰れる)Dさんが悪い、という考え方もできるかもしれません。

 でもね、これだけじゃ足りないんです。よっこいせぇっと。

図2

 イヤなもんが出てきましたな。そうです。当然仕事には次もその次も延々と控えてますと。そして各ビーカーに水を汲む人(上司だったり営業だったり社長だったり顧客だったり)から考えた場合、このバックヤードにある水も一刻も早く片付けてもらいたいということになる。

 じゃあ実際に水を汲みましょうか。

図3

 ご覧の通り全員がなみなみ一杯になりましたー。日本酒だってこぼすように次ぐのがマナーですしね。これこそ最適化ー。めでたしめでたし。

 んな訳ねーだろヴォケ!!!!!!

 失礼。興奮してしまいました。でもこうなることはまず100%ありえませんから。じゃあ実際にはどうなるのか?こうなります。

図4

 ・・・・・・・・・・・。

 思わず絶句してしまいますが。重力?容量?なんですかそれ?でも残念ながらこれがこれが真実です。理不尽の前には質量保存の法則ですら意味をなしません。え?水がこぼれることと質量保存の法則とに関連は無い?気にするなそんなこと。

 で、これこそが「デキるヤツから潰される」理由だったりするんですよね。この辺のカラクリを説明させてもらいましょ。

 まずこの図で注目してもらいたいところはAさんBさん、CさんDさんの間に積まれた「追加作業量」な訳なんですが。許容量の2倍詰め込まれたAさんに対してDさんの追加量0じゃねぇかって?こんなことありえないって?

 あります。それどころか現実に何度も見てます。

 なぜこうなっちゃうのか。それは仕事振る側の「意志」が働くから。

 仕事をこなす側(Aさん〜Dさん)はもちろんですが、振る側にとっても「その仕事」が上がるかというのは死活問題。となると当然ながら下心が芽生える訳で。

 より早く。より正確に。

 すると、悲しいことに充分に余裕のあるDさんなんかに頼むよりも、Aさんに怒鳴りつけてでも押し込んだ方が結果的に早くて正確、なんてことが現実として起こってしまうと。

 この考え方がより極端になりますと(ある意味壊れたダンプカー生成理論にも通じるわね)、仕事振る側は、今各人のビーカーにいくら水入ってるかなんて考慮しなくなってしまいます。一種の感覚麻痺。いくら溜まってよーがお構いなし。「これが先!」「緊急!」「最優先!」のインタラプトが乱舞することになる。

 かくして、仕事の割り振り基準として、以下の定義ができあがります。

  1. 監禁してでもAさんにやらせる
  2. Aさんに断れた場合Bさん泣かしてでも押し込む
  3. Bさんにも泣いて抵抗されたので渋々Cさんに頼む
  4. Dさんに頼む位だったら自分でやる

 ほとんど強盗か強姦の世界ですな。自分で書いといて言うのも何ですが笑えねぇ。

 一度この状態に入り込んでしまうと、Aさんが過労状態から抜け出すのはまず無理になってしまうのが現状でしょうねぇ。そのうちポッキリと・・・。

 おわかり頂けました?デキる人が壊れていく理由。

 で、今回はこの点に関してもうひとつ、指摘しておかなければいけないことがあります。

 まぁ紆余曲折の結果、晴れて(?)Aさんの破壊に成功しました。Aさん会社辞めました。さーて、仕事出した側はどー考えるでしょーか。

 「しまったなぁ、Aさん壊しちゃったなぁ、どうしよー」

 ですか?ノンノンノン。とんでもない。

 「Aの馬鹿野郎壊れやがってあの無能モンが」

 はーいここ今日の最重要ポイント。試験出るよー。何のだ。

 動けてるときは散々Aさんに押し付けておいたクセに、壊れた途端に手のひら返してAさんに無能の烙印を押し付ける。このことで、自らの責任を回避しようとする訳なんですわーな。もはや矛盾とかそーゆーレベルですらなくなってます。

 これが現実なんですよね。作業が滞る責任をどこかに逃がしてやらないことには己に降りかかる訳ですから。保身のためにはなりふり構わなくなってしまうのも心情的には理解できるんです実は。もちろん許してはいけないのですが。

 でもこの姿勢が「次の悲劇」に繋がることは容易に想像できます。あぶれた作業はどこに降りかかります?今までのロジックから考えれば当然Bさんが全被り・・・となりますよね?こうして上から上から確実に犠牲者を増やしていく「作業者破壊スパイラル」のできあがり、となる訳でーす。

 

 さて。わてらはここから学ばなきゃいけないんでしょーね。

 もちろん、作業量を調節してできる人に仕事の洪水が押し寄せるのを防ぐ術も学ばなきゃならんでしょう。幸いにしてこれに関してはツールがある。XPの計画ゲーム、スクラムのプロダクトバックログ。デマルコ師匠も言及してたように、すべてのプロジェクトに優先順位をつける(ただし同一順位厳禁)なんて方法もある。

 でも、果たしてそれだけでいいのかね?なんてことも考えるんですよね実は。

 というのも。ちょっと考えてみてください。Aさんは徹夜残業休出当たり前で仕事に没頭しました。結果Aさん壊れました。それ見て、今まで蚊帳の外に置かれていたCさんやDさんってどう思うんでしょうかね?

 「大変だ、早く自分もAさんみたいに力つけよう」

 って考えますかね?

 「うわー、絶対にAさんみたくならないようにしよう」

 って考えるのが自然じゃないですかね?私自身もこう考えると思いますし。世の中そんなにきれいごとばかりじゃ進みません。Aさん壊した輩が保身に入ったのと同じ感情を持って、CさんもDさんも保身に走るってのは充分に考えられると思うんだな。

 するとどーなるか。己を守るためにわざとスキルを身に付けない。わざと非協力的な態度に終始する。わざと作業を省力化しない・・・・。

 どうでしょ?ダムが決壊するが如く、プロジェクトから会社全体から総崩れに陥る風景が脳裏に浮かんできません?

 という訳で最後に暴論振りかざすんですが。

 できる人、まぁスターとかエースとか言われてますが。彼らを絶対中心に据えた組織体系って、もはや終焉に近付いてるんじゃないかなー、てのを考えてるんですよね。

 ていうかいわゆる「エース」呼ばれてる人がズタボロの血まみれになってなんとか立っているだけ、てのが今の状態なんじゃないでしょーかと。そんな現状見せられて次のエース候補が手ぇ挙げてくれるとはとても思えんし。

 ひょっとしたら既にエース云々抜きでもプロジェクトが回っていく状態を嫌が上にでも模索始めなきゃいけないところまできてるのではないか・・・そんな気がしてるんですけどね?できる人はいつまで超人的な自己犠牲を続けなきゃいけないんでしょうね?

 そんなこともまで考えてしまうんですが。

 悲観的過ぎますかね?


新着順INDEX 分類別INDEX
Top